祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 シルフィスは温かなカップに口をつけた。良い香りのお茶だ。
「リシュナのことだけどさ」
 一口茶を啜ったナーザが、前置きなく言った。
 シルフィスは顔を上げてナーザを見る。
「ルチェが泣いて、困った。父さんと母さんは、わかっていたみたいだったけど……」
 金茶の目を窓の光に細めて、ナーザは半分独り言のように続ける。
「俺も、本当は、半分ぐらいは、そうなるんじゃないかって、思ってたんだ。けど、もう半分は……ほら、奇跡……とかさ……」
 言葉を切らしたナーザを慰めようと、シルフィスは口を開いた。──あれで良かったんだ。彼女は輪廻の輪に戻れたんだよ。
 けれど、出たのはまったく違う言葉だった。
「どうしようもないことはあるさ」
 うん、とナーザは小さく頷く。
 自分の言葉に驚いたのはシルフィスだった。急いで言い添える。
「いや、だから、でも、これで彼女は輪廻の輪に戻れたわけで……彼女が言ったように、生まれ変わって、また……」
「今度生まれ変わったら、あいつ、俺なんかと関係なく幸せになればいいんだ」
 窓を見たまま、ナーザが言う。とても簡単なことのように。
 言葉を飲み込み、シルフィスは改めて少年を見た。
 澄んだまなざしはとても遠くを見ている。
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