祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 パチッ、ときた。静電気みたいのが。
 同時に手首が解放され、シルフィスは後方へと跳んでいた。
 距離をとって、シルフィスはナーザが立ち上がるのを瞬きもせず見つめていた。そっと雷撃を受けた手首に触れる。
 痛かった。けれど、冬の乾いた日にしばしば体験する程度の刺激だった。今はもう何でもない。
 服の土埃をはたくナーザのそばに、飛頭が宙を滑るようにして近づいた。
「手加減しすぎじゃない?」
「相手、お客さんだぞ」
 不満そうな彼女にそう言ってから、ナーザは生首からシルフィスに目線の向きを変える。
「ごめんなさい。でも、強いね、お客さん。何か、そんな気がしたもんだから」
「冗談だとしたら、笑えないね」
 微笑もうとしたが、頬が強張っていてできなかった。背筋は凍っている。この少年、その気になれば、自分を殺せたんじゃないか。
 危険だ──少なくとも王宮はそう判断するだろう。
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