祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 おまえたちは、師を失った私から弟まで奪う気か──母を失い、家臣たちから責めたてられ、どうしたらいいかわからない自分を、ぎゅっ、と抱き締めて叫んだエディアの声が聞こえた気がした。強くきらめく黒曜石の瞳も、はっきりと思い浮かんだ。
 黒い髪、黒い瞳の美しいエディア。
「僕はエディアのためなら何でもする。何でも我慢する。家臣に後ろ指差されることも、母のために泣くことも……」
 シルフィスは手のひらで口を押さえた。
 何を言った、今。
 肩で息を整えて、シルフィスは声を絞り出す。
「すまない。僕が今言ったことは忘れて……」
「あんた、お母さんが死んだのに、泣いてないの?」
 シルフィスの声は、リシュナの言葉に遮られた。それがあんまり静かだったので、シルフィスはリシュナの顔を見ることができた。
 温かな緑の目が自分を見ていた。……二百年も呪われて、どうしてこんな綺麗な目でいられるんだろう。
 知らないうちに、シルフィスの唇が動いていた。
「泣いてない……泣いていいはずがない。エディアを殺そうとした女のためになんか」
「エディア……王様がそう言ったの? 泣いちゃいけない、って」
 まさか。
「言ってない。エディアはそんなこと、言わない」
 エディアはいつも優しかった。だけど……だからこそ……。
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