猫かぶりなカップル
「その腕時計、昨日もしてたよね?」



神城があたしの左腕の時計を指さす。



思わずさっと隠してしまう。



「…そんなこと言われても、昨日はおうちにいたんだけどなあ。同じ腕時計した違う人じゃないかな?」



イライラ、そしてハラハラしながら頑張って笑顔を作る。



一方の神城は余裕そうだ。



あたしを壁際に少し追いやる。



「…こんな美少女、見間違えようあるかな?」



そう言って、あたしの顎に手をやって、軽く自分の方へ向けた。



目の前にいる神城の顔は王子そのもの。



急なことに、素で顔が赤くなってしまった。



こいつ、なにやって…。



にやっとした表情が悪魔みたいだ。



ギリギリの思考回路で、あたしは口を開いた。



「…美少女なんて、そんなこと全然ない…よ?」



あたしが言うと、神城は余裕の表情を続けたまま、あたしにとどめの一言を放った。



「あとその口調と性格、猫被ってるって結構前からバレてるから」

「…」



もう無理…。



これ以上ごまかせない…。



神城に、全部バレてる…。



こうなったらもう開き直るしかない。



開き直った上で口止めするのみ!



「あーーっもう! そうそう! ラブホも行ったし昨日あんたとそこで会ったしキャラもぜーんぶ猫かぶり!」

「わーお。素の性格とのギャップやばいね」

「あんたに言われたくない!」



あたしが言ったら嫌みっぽく笑われた。



ほんとムカつく…。



「なんであたしが猫被ってるの分かったの?」

「僕も被ってるから、同類の人間、わかるんだよね」

「神城も?」



自分のことでいっぱいいっぱいであんまり覚えてないけど、昨日いつもと口調違う気がしたからそれのこと?
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