食堂の白井さんとこじらせ御曹司
 そうだ。明日は、前残業を使用。いつもより30分早く出勤しよう。30分で足りなかった分は月曜に回すことにして……。
 明日は、菜々さんにまたメイクをしてもらうのです。この間はトンボ玉のストラップ喜んでくださいました。明日は、ガラスの花のペーパーウエイトをプレゼントしてみましょうか。
 ……でも、ペーパーウエイトなんて使うでしょうか?えーっと……。私はチラシで作った箱型の生ごみ入れを積んである上に使っていますが……。
 服装はどうしましょう。
 明日行く店のウエブサイトを思い出します。
 海の底のようなお店。
 ……。濃紺のワンピースに決めました。
 海の底に溶け込むような色合いのワンピースです。それから、今度はちゃんとコンタクトレンズも忘れずに持っていきます。
 和臣さんの……顔が見たいのです。
 私をどんな目で見ているのか。私の話をどんな表情で聞いているのか。
 そして、菜々さんのことを話題に出した時、和臣さんがどんな反応をしているのか……。
 私、そういう表情を読むのはうまいのです。反応を見れば、和臣さんが菜々さんをどう思っているのか分かります。
 ……。私、弱虫ですね。
 傷つく前に、傷つかないように予防線を張るなんて。


 ひゃーっ!
 寝坊しちゃいました!今日は早く出勤してご意見の返信を書くつもりだったのですが、いつも通りの出勤時間になってしまいました。
 急いで【間が空いて申し訳ありません。次の返信は月曜以降になります】と、連絡事項だけ書いた紙を掲示板に張り付ける。

「おや、今日も飲み会かい?残業はしてかないみたいだね。ご意見は、またファイルに挟んでおくよ」
「ありがとうございますチーフ!」
 持ってきたワンピースに着替えて、リュックに着て来たジーパンとTシャツを入れます。
 それから、小さなショルダーバックを持って、菜々さんの待つコインロッカーに向かいました。
「結梨絵ちゃんいらっしゃい!今日はありがとうね!」
「あ、いえ、私のほうこそ、菜々さんにまた化粧してもらえるなんて……」
 菜々さん本人は行かないのに。
「いいのいいの!私、化粧するの趣味だから。今日は落ち着いた色のワンピースなんだね。どんな雰囲気に仕上げようかな」
 菜々さんが私の服装を見て楽しそうに微笑みました。
 どうやら、化粧するのが趣味というのは、嘘ではないみたいです。
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