食堂の白井さんとこじらせ御曹司
 2駅ですし、このまま立っていればいいですよね。
「あ、ごめん、ちょっと、席取り付き合って」
 和臣さんが私の手を引いて、空いている席に腰かける。
 席とり?
 しばらくして、抱っこひもで赤ちゃんを抱っこして、3歳くらいの幼児の手を引いた女性が乗り込んできた。
 和臣さんがすぐに立ち上がる。
「こちらへどうぞ」
 声をかけられた女性が私の隣、和臣さんが立ちあがった席に視線を向ける。
「どうぞ。ほら、ここに座って」
 3歳くらいの幼児に声をかける。
「すいません、ありがとうございます」
「いえ、私たち、ここからすぐなので」
 女性に笑いかけながら、泣きそうになりました。
 駄目です。
 駄目です。
 なんで、こんなに……和臣さん……。
 私、和臣さんのこういうところ、大好きです。
 ずるいです。今日だけ、今日だけ楽しんだら、もう和臣さんと会わないようにしようって思っているのに。
 和臣さんと一緒に扉近くに立ちます。
「ごめんね、座らせてあげられなくて」
 そんな言葉いりません。
 ずるいです。

「いえ、2駅ですし、全然平気ですよ。それよりも、ありがとうございます。誰か譲ってあげないかなと思ってはらはらして見ているより、すっきりしました」
 わざわざ席取りしてまで譲らなくても、他の誰かが譲ってくれたかもしれない。だけれど、小さな赤ちゃんを抱っこして、まだ電車の中で立っているのが大変そうな小さな子供と手をつないで……。電車が動き出す前に席に座ってもらえてよかったです。
「よかった」
 譲った女性に視線を向けると、男の子が手を振ってくれました。それにこたえて手を振り返します。
「本当は電車じゃなくて、車で行けたらよかったんだけど」
「車、持ってるんですか?」
 このあたりでは珍しい。自動車を持とうと思ったら、維持費が大変なのです。
 駐車場を借りるだけでも、万単位のお金がかかります。そのくせ、近場に出かけようと思っても、コンビニには駐車場一つついてない場合も多いのです。
 少し郊外に出ればそんなこともないのですが……。
「まぁ、一応……でも、お酒、飲めないのもつまらなかったから」
「そうですね。和臣さん、お酒行けるタイプですものね」
「結梨絵さんも分かる口だよね」
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