親友に「花嫁を交換しよう」と言われまして
 
 ああ、そういう。
 つまり自分の子どもが望めない高位貴族のご令嬢が、自分の価値をどうしても捨てきれなくて、すでに跡取りのいる“辺境伯”に無理やり嫁いできたってわけか。
 フォリアみたいな子がアグラストの婚約者だったのは、いくら辺境伯の娘とはいえちょっとおかしいなぁ、とは思ったが……乗っ取りにあってたわけね。
 グランデ辺境伯にとっての利、はフォリアがシーヴェスター王国の王家に嫁ぐこと。
 それを条件に無理やり前妻と別れさせ、入り込んで息子を横取り。
 しかし、辺境伯は前妻を追い出したくなかったから屋敷に匿った。
 それを快く思わない後釜夫人が、フォリアとフォリアの母親を冷遇していた——というところか。
 なかなかやりますね。

「でもお父様はこの剣をくれたんだ。ちゃんと私は覚えてる。自分の身は自分で守れって……私のことを想ってくれていたんだ」
「……そうか」

 そうだろうか?
 シーヴェスター王国には刃物を贈ることは縁を切る意味があると、アグラストに聞いたことがある。
 剣も刃物の類だと思うし、エーヴァス公国に嫁ぐことになればむしろ家族の縁は切った方がグランデ辺境伯家にとって都合がいい部分もあるんだよな。
 うちの国は帝国からシーヴェスター王国を守る盾。
 ——捨て駒として作られた国。
 もし、万に一つがあるのなら……娘を切り捨てていた方が、都合の良い時もある……。

「……君もなかなか難儀だなぁ」

 難しいことはわからないと言いながら、それでも感じ取るものはあったのだろう。
 感覚的に彼女はとても聡い。
 そうか。
 君は帰るところがないんだな。

「フォリアはなにか夢はあるか?」
「え? 夢……?」
「戦うことは好きみたいだし、冒険者になって早々バジリスクも倒したんだろう? 無傷で」
「う、うむ!」

 地面に咲いているサコの花。
 茎が長くて丈夫なので、編めば色々なものが作れる。
 数本とって編みながら、フォリアに「この国でなにがしたい?」と聞いてみた。

「う、うーん……」
「まあ、まだ来て二日目だから、この国のことはわからないことの方が多いだろう。でも、できればフォリアに、この国でやりたいことを見つけてほしい。個人的には『祝福師』として、魔石を多く浄化してくれるとありがたい」
「それは、なぜだ?」
「今この国に『祝福師』はハルスしかいない。でもハルスは体が弱くて、一日に浄化できる魔石は多くないんだ。昔は今より多かったから、この国には魔石道具がたくさんある。でも、浄化が追いつかなくなって、魔石道具は動かなくなってしまった」
「!」

 だから浄化していけば、この国はきっと元気になると思う。
 よし、できた。
 サコの花で編み上げた、花冠。
 それを両手で掲げて裏返してみる。
 うん、我ながら上手にできたんじゃない?

「わあ……花でこんなものが作れるんだな……すごい!」
「ありがとう。……実を言うと俺はドワーフの血を引いてる割に、その器用さはまるで受け継いでなくてな。この花冠ひとつ上手く作れるようになるまで五年間毎日練習してた」
「え?」
「ハルスもそうだが、君も一日で『祝福』を扱えるようになっただろう? 才能がある人が羨ましいと思う。俺は才能ないから、人の倍時間がかかってしまう」

 はい、とフォリアの頭の上にそれを載せて、微笑む。
 なかなか似合ってる。

「でも、それは国も同じだと思ってる」
「……国?」
「俺の夢は、エーヴァス公国が帝国とシーヴェスター王国の懸け橋になることだ。みんな喧嘩せず、きちんと戦争も終わらせて、平和条約と不可侵条約でも結んでもらって……穏やかな世界になればいいなって思ってる。邪樹の森や魔物は、聖女なき今ただただ日々を費やして討伐と伐採を繰り返し、押し留めるしかないからな。その脅威を前に戦争までするなんて、馬鹿げてる」

 なにより胃が痛い。
 なんでそんな面倒ごと増やすのかわからん。
 血とか思想とか知らんがな。

「時間はかかるけど、できると思う。いつか」

 魔物と邪樹の森という脅威が潰えることはない。
 ここまで混じり合った六つの種の血を、今更また六つに分けることなどできるわけがないのだ。
 なら、それを受け入れて、受け止めて、前に進んだ方がいいと思うんだけどなぁ。

「い——いいと思う」
「ん?」
「と、とてもいいと思う! 私はいいと思うぞ! それ!」
「あー、ありがとな。……ミリーにもそう言われたよ」
「あがっ!?」

 俺の夢を語った時。
 まあ、今よりお互いちっちゃかったけど。
 ……でもミリーは、俺の夢を支えてくれると言いながら……。

「あ、え、お、ぅ……え、ええと……」
「……いつか、この国のことをもっと知って……フォリアが俺と同じ夢をみてくれたら——嬉しい」
「…………」

 目を見開かれた。
 さて、もう大丈夫そうなので立ち上がる。
 そうして手を差し出した。
 理解の早いフォリアは俺の手にちゃんと手を乗せて、引っ張り上げるとしっかり立ち上がる。

「すっかり陽が落ちたな。夕飯を用意してもらってるから一緒に食べよう」
「ゆ、夕飯……」
「フォリアが今日バジリスクの魔石を獲ってきてくれたから、明日浄化を頼んでいいか? 魔石道具に使いたいんだ」
「あ、ああ! 私はやるぞ!」
「ありがとう」

 ちなみにジードはできる男だ。
 俺が出かける前に胃が痛くなっていたのを見て、俺の分だけお粥にしてくれた。
 ありがとう、胃に優しくて美味しい。
< 11 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop