親友に「花嫁を交換しよう」と言われまして
 
 その翌日。
 フォリアがエーヴァス公国に来て、三日目の朝。
 結論から言うと、フォリアといると退屈しなさそうだなぁ……の、境地。

「リット様、もう起き上がってよろしいのですか!? まだ横になっておられた方が……」
「いや、もう大丈夫だ。…………。で、あれは俺の見間違いではない、のか?」

 ごくり……。
 ソファーから起き上がり、俺はジードに尋ねた。
 朝食の時に、フォリアの背中からとある生き物が出てきたのだ。
 ちょっとありえなすぎて俺は気が飛んで倒れたのだが、見間違いじゃないとしたら改めてヤバい。
 色々、各所各方面にヤバい。
 主に俺の胃がヤバい。
 頼む、幻覚だったと言ってほしい。

「……は、はい。聖獣アリス様に間違いありませんでした」
「……ふっ……」
「リット様ーーー!?」



 さて、時を戻そう。
 ことは三時間ほど前に遡る。
 昨日のこともあるし、今日はフォリアにバジリスクの魔石の浄化を頼み、その対価として『エンブレントドラゴンの魔石』と『オリハルコン』で魔剣を拵えてはどうか、提案してみるつもりだった。
 どちらも伝説級の素材なのだが、バジリスクを単身で討伐できるフォリアなら使いこなせるだろう。
 ちなみに『エンブレントドラゴンの魔石』は当然ながら浄化しないと使えないよ!
 と……まあ、なので使い道がなかった。
 フォリアが魔剣にして使ってくれるんならいいんじゃないかなぁ、というのが主な理由だ。
 ジードに話したら「え……」って引かれたんだが、「倉庫で腐らせとくのももったいないじゃん?」って言ったら「え、ええ、まあ、そ、そうですね」って微妙な顔されたんだよ。
 なに? 言いたいことがあるならはっきり言って?
 なんて、やりとりはこれ以上掘り下げないけど、つまりそうして朝食の時、うちの両親とハルス、フォリアが揃って食卓についた、その瞬間だ。
 フォリアの肩に、なんか乗ってる。
 もこもこのもふもふの、なんかぬいぐるみみたいな生き物が。
 フォリア以外の全員が頭に「?」と疑問符が浮いた。
 お鼻がヒクヒク動き、反楕円形の体。
 短い手足に短く丸い尻尾と、つぶらな瞳。
 そしてもっとも特徴的な、長い二本の耳。
 なんだか伝承の聖獣——ウサギに似てる気がするんだが、なんだろうな? あれ。

「フォリア、肩に大きな生き物がいるんだが……使い魔でも得たのか?」
「え? わ、わぁーー! 出てきてはダメだと言ったではないか!」
『ピャー! うっせぇ! あんただけこんなおいしそうなモノ、食べようとしてんじゃないわよ! こちとら千年以上もご飯食べてないのよ!』
「だ、だからあとでアリスが好きだと言っていたにんじんをもらっていくと言ったじゃないか! 今出てきては……あっ」

 ぽてん、と……その生き物はテーブルの上に落ちてきた。
 アリス。
 不思議なことは続くものだな。
 伝承の聖獣と同じ名前、同じ特徴とは。アハハハハ。

「……フォリア、それは……なにかな?」
「え! ……えぇと、そのぅ」
「怒らないから教えてくれないか?」
「ほ、ほんとか? ほんとに怒らないか?」
「うん。怒らない怒らない」

 怒ると胃が痛くなるしな。
 怒らないよー、とにっこり告げると、フォリアは「実は昨日、丘の上で友達になったんだ。暇だから連れて行けと言われて!」と、元気よく紹介してくれた。
 その名は——。

「アリスという“うさぎ”だ!」

 聖獣じゃねーか。

「に、兄様ーーーー!?」
「リ、リットーーーー!?」

 ……そこから俺の意識はない。
 ソファーで目が覚めたということは、気絶したんだな、とすぐわかる。
 水と胃薬を飲んで、その後どうなったのかをジードに聞いたところによると……。

「閣下とお妃様がアリス様にお話を聞いたところ、フォリア様が聖樹によりかかって泣いておられたので気になって出てみたところ、光魔法の適性が高かったため姿を見つけられてしまい、暇してたからついてきたとのことです」
「……暇してたから……」
「はい、千年以上もあの場にいたため、暇してたそうです」

 そりゃ暇してんだろうなぁ。

「……暇してたなら出かけりゃいいんじゃないのか?」
「それが、千年以上もあの場に光属性の適性が高い者が近づくことは……まして聖樹に触れることはなかったそうで……」
「そうか、聖獣アリスがあの場から離れるのには条件が幾つかあったのか。で、偶然にもフォリアがその条件をすべて満たした、と」
「さすがはリット様。その通りです」

 いやー、そんなことあるぅ?

「……ちなみに聖獣アリス様はどんなことができるんだっけね? 伝承の通りだと、アレだよね? 邪樹の場所を補足したり、魔石の浄化を行えたり、結界を張ったり、聖女に……仕えたり……」

 自分で言ってて、どんどんガタガタ震えてきた。
 なぜなら、聖獣が蘇ったということはつまり古の聖女の力の約半分が蘇ったと同義なので。
 汗が、冷や汗がぶわりと流れる。
 この世界のパワーバランスが、根底から覆りかねない……その、存在の力。

「…………ち、父上はなんと?」
「今のところ、聖獣の復活をたいそう喜んでおられました。ですが、聖獣が現時点でいかほどの力をお持ちかわかりませんので、様子を見た方がよい、と」
「だ、だよな」

 俺もその意見に賛成ですわ。

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