親友に「花嫁を交換しよう」と言われまして
 
「……エルマ皇女殿下は、思っていた以上に純粋な方なのかもしれませんね、兄様」
「そ、そうだな」

 おかげでなにが最良なのかまるでわからん。
 と、胃を押さえていたらハルスが微笑んだ。

「兄様はこのまま他の招待客のお出迎えを再開してください。あまりお待たせしすぎてはまずいでしょう?」
「それは、まあ……だがハルス、どうするつもりだ?」
「大丈夫です。お任せください」
「俺も行こう。……大丈夫だリット、お前が考えていることはだいたいわかる」
「アグラスト……」

 確かに、俺は主催なのであの場に混ざるのは後回し。
 今回の交流夜会はエーヴァス公国、シーヴェスター王国、そして帝国から二十歳以下の王侯貴族を呼んだ。
 特に帝国の貴族は俺も知らぬ者が多数。
 きちんと挨拶をして、把握しておきたい。
 それはアグラストも同じだろうに、アグラストは「お前の夢は、俺も知ってる」と笑う。

「任せろよ、親友。俺も今より、帝国と友好な関係を築きたい」
「……わかった、頼む」
「ああ」

 本来、自国の利益を優先させるべきなのはわかっている。
 俺とアグラストは対等ではない。
 それでも、あいつの人柄は好きだし信用している。
 俺は俺のやるべきことをやろう。
 フォリアとアグラストとハルスとミリーを信じよう。
 俺の夢を知っているあの四人を。
 どうせ三国が友好関係を築くのに、俺一人でどうにかできるものではないのだ。
 友好関係は信頼関係からできる。
 そう、信じてる。

「…………」

 入り口の近衛兵に頷いて、来客の入場を再開させた。
 さあ、ここからは俺にしかできない仕事だ。
 頼んだぞ、みんな。


 ***


 胃が痛い。
 一通り挨拶回りが終わってから、俺が招待客に勧めたのは料理テーブル。
 会場の脇には座って食べられるようにと、テーブルと椅子も用意してある。
 交流夜会であるため、各自のんびり話をしてほしいのだ。
 で、それにはうまい酒、うまい料理、うまいお茶、うまい菓子は必須だろう。

「兄様」
「ハルス、首尾はどうだ?」

 先ほど別れてからそれっぱなしになっていたが、隙を見てハルスが声をかけてきてくれた。
 あのエルマ皇女の腹の中はいかがなもので、フォリアは聖女になるべきか否か。
 その判断はフォリアに委ねてはいるが、フォリアは俺とエーヴァス公国の民の意見を優先するという。
 ならば結局のところ、俺が判断を下さなければならない。
 そしてその判断に帝国次期女帝の腹の中の事情は、重要な要素だ。
 ハルスとアグラストは「任せて」と言っていたが、どの程度までわかったのだろう?

「安心して、兄様。エルマ皇女はフォリアさんタイプだよ」
「そっかぁ」

 裏表のない、考えるのが苦手なタイプかぁ。
 それが次期女帝で大丈夫か帝国〜?

「その代わり、連れてきた従者たちがエルマ皇女を制御する役目だったようだけど……まあ、フォリアさんタイプだから……」
「そっかぁ」

 五人もいるのに手に負えなかったんですね、わかります。
 うちもクーリーが日に日に疲れた顔をしながら、生き生きフォリアの躾に奔走しているのを見ているので。

「それで、兄様……僕、エルマ皇女と結婚しようと思います」
「ブッ!」

 噴いた。
 仕方ないと思う。
 可愛い弟がそんなこと言い出すと思わなかったんだもの。

「なっ!」
「帝国は異類混血族が大多数を占めていて、種族主義が実権を握っているそうです。クーリーがいた頃と変わらない」
「……!」
「そして異類混血の血が強いと『祝福』を使えない者が多くて、帝国の内情はエーヴァス公国よりもひどい……」
「なっ」

 なんだと……。
 うちでもなかなか大変なのに、帝国はそれ以上!?
 しかし、それも予感の一つとしてはあった。
 内情は邪樹の森に阻まれ、なかなか調査は進まぬところではあったが間者の調べでも「我が国と同等かそれ以上に悪い状況」と言う報告は受けていたし。
 帝国はエーヴァス公国よりも国土が広いため、把握も改善の指令も、とにかくなにもかもが遅れていて、しかもうちと違って聖樹による結界もなく魔物の侵攻が多いのだ。
 だが、それならば尚更『聖女』は喉から手が出るほど欲しいのでは……。

「だから、『祝福師』たる僕が帝国に婿入りします。帝国はエーヴァス公国に借りを多く作ることになるでしょう」
「!」

 それは、つまりハルスがエルマ皇女のところ——帝国に婿入りすることで、『祝福』による恩恵を広げ、なおかつその繋がりを持って『聖女』を派遣する……というところまで入っている。
 エルマ皇女はハルスに一目惚れしたようだし?
 おそらく、悪いようにはされないだろう。
 うちのハルスは大変賢くて気が利く。
 フォリアタイプのエルマ皇女を上手いこと操作——ゲフンゲフン……、……導いて、周りに傀儡にされないよう守り、立派な女帝に育て上げることも不可能ではないだろう。

「…………」
「兄様? 顔、すごいことになってますよ」
「お、おう、で、でも、だって、なぁ?」
「言いたいことが全部顔に出てます。大丈夫です」

 俺の憂いを取るために、ハルスが帝国に行くのは不安なのだ。
 うちの国は大した後ろ盾にはなれないだろうし、エルマ皇女の立ち位置によっては周囲は敵しかいないだろう。
 エルマ皇女の従者が五人も来ているのだって、顔で選ばれたとかでない限り、()()()()()()()()()()()()付けてきた、とも考えられる。
 とにかく情報が少ない。
 そんなところに可愛い弟をやるなんて……。
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