親友に「花嫁を交換しよう」と言われまして
 
「大丈夫です。フォリアさんタイプの女性、僕も嫌いじゃないので」
「え、ええ?」
「兄様とフォリアさんを見てたら、いいなって思うようになって……だから……大丈夫」

 もちろん、俺の夢のことも理解した上で、ハルスはそう言っている。
 なんだか色々複雑だが……ハルスがそう言うのなら……。
 だがそれだとアレじゃないか?
 フォリアは——。

「美味いー! これはなんの肉だ!?」
「本当だ……美味い! リット、リット! これはなんの肉だ!?」
「美味いぞ! お持ち帰りしたい!」
「わかる! 私もお代わりだ! リット!」
「ええ……?」

 俺とハルスのしんみり空気をぶち壊す三名。
 その後ろから、ミリーがやっぱり困り果てた笑顔で若干涙を滲ませながらついてきた。
 ああ、なんだかんだアグラストもこういうところあるもんな。
 ミリー、これを三人も任せきりですまない。
 で、三人が皿に乗せて——なんならアグラストは骨つき肉にがぶりついているのだが——持ってきた肉は魔物肉だ。

「魔物肉だと!? こんなに多種多様な魔物肉を、わざわざ? た、大変だっただろうに」
「待て待て! 魔物肉はすぐ腐る! それこそソーセージや燻製にしても腐る! ここにはそういうものもあるではないか!」
「いや、実は数日前から加工して熟成させていたものだ。フォリアのおかげで魔物肉も血抜きの時に『祝福』で浄化すると、普通の肉のように加工ができることがわかったんだ」
「「な、なんだってー!」」

 これは魔蚕の糸を染める時に、フォリアの一言で発覚した。
 フォリアが「魔物の肉も『祝福』したら長持ちするんじゃないのか?」と。
 魔物の肉に『祝福』だなんて、誰も考えたことがなかった。
 だが、物は試しとフォリアがやってみたところ、普通の畜産肉のようにその日に腐る、ということはなくなったのだ。
 おかげでこの日のために、多くの肉を用意できた。

「なんと……『祝福』にそんな使い方が……」
「リット、それで、決まったか?」
「……ああ、フォリアには聖女になってもらいたい」
『まあ、いいの?』

 アリス様が首を傾げたのは、俺がフォリアを聖女にするのに乗り気ではなかったからだ。
 でも、ハルスがエルマ皇女の婚約者になり、帝国で『祝福師』として働きたいのだと告げると、エルマ皇女は顔を真っ赤にして——なんかこう、形容し難い踊り? 動き? を始めた。
 ちら、とハルスの方を見ると、ニコニコしてる。
 アレが可愛いのか……。

「でも、そうなるとエーヴァス公国に『祝福師』がフォリアさんだけになってしまうでしょう? フォリアさんの負担を減らすには、それがいいと思うのです」
「そうか……リットもそう思うのか?」
「ああ」

 そして、フォリアが聖女になれば色々な利権が絡む。
 多くの者がいい意味でも悪い意味でも聖女を求め、時に争いも起こるかもしれない。
 だが、それひっくるめて、俺は——。

「大丈夫、なにがあっても……フォリアは俺が守るから」
「っ……」

 手を繋ぐ。
 見下ろした先のフォリアは、片手にアグラストが食べているよりやや大きめの骨つき肉を持っていた。
 うーん、決まらねーなぁ!
 ……けど、これが俺と君らしい、とも思う。
 同じ志を持ってくれた君には心から尊敬と感謝を。
 だから誓えるのだ。
 君のことは俺がなにを犠牲にしても守ろう。
 特に、胃とか。

「……じゃあ、私もリットのことを守る」
「!」
「アリス! 私はリットと、リットの愛するこの国と! リットが叶えたい夢を守るぞ!」
『なるほどね! イイんじゃない!?』

 骨つき肉を持ったまま、フォリアはアリス様を天井へ向かってジャンプさせる。
 会場はなにが起こったのかと、突如発せられた一際眩しい光に目を瞑ったり手で顔を覆ったりした。
 この日——世界に再び“聖女”が現れる。

 ……片手に骨つき肉を手にした、聖女が。



 ***


 それからの話を少しだけ。
 フォリアが聖女となり、邪樹の森は瞬く間に狭まり、我が国と帝国の間に街道を繋ぐことができた。
 それもこれも聖女の力のおかげである。
 その後ハルスがエルマ皇女の婚約者として帝国に移住して以降、エーヴァス公国と帝国間で不可侵条約が締結。
 さらに国交も開いた。
 国内ではシーヴェスター王国から帝国に乗り換えるべきではないか、なーんて話題も出たが、フォリアの実家——グランデ辺境伯とシーヴェスター王家のおかげで平穏を取り戻したことで聖女が実家に顔を出せるほどグランデ辺境伯は元に戻ったそうで、その話は二度と出なくなっていたりする。
 言うほどのことでもない、とアグラストは前置きしつつ「子を産めないことがわかった侯爵家の娘が、ずっと片想いしていたグランデ辺境伯のところに押し入り、同じ女としてその気持ちを汲んだ夫人とその娘を蔑ろにしていた……とてもめんどくさい痴情のもつれだった」と教えてくれた。
 なるほど、めんどくせぇ!
 そのアグラストとミリーも夫婦生活は順調。
 第一子の妊娠も聞こえてきた。

『ちょっと! リット! フォリアを止めて!』
「リット様! フォリア様が!」
「どうした!?」

 入ってきたのはクーリーと、クーリーの肩にはアリス様。
 執務室に俺とジードの緊張が走る。
 案の定、アリス様が『あの子、妊娠がわかったばかりなのに魔物狩りに行くと言うのよ!』と叫んだ。
 はああああぁーーーーー?
 魔物狩りーーーーー!?

「な、なに考えてるんだ! うっ! い、痛い……ぐぬぬ……ジード、胃薬を用意しててくれ! 俺はフォリアを捕まえに行く!」
「はい!」
「ご案内します! こちらです!」
『もー! もー! ほんっとおとなしくしてないんだからあの子ー!』

 部屋から出て、クーリーの案内であのじゃじゃ馬の元へと走る。
 きっと今頃、剣を振り回しながら邪樹の森に突入しているのだろう。
 ああ、まったくもって胃が痛い。



 でもこの痛みは俺が選んだ“犠牲”だからな。
 悪くない、と思う。多分。
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