セカンド・ファーストラブ
ドライヤーのスイッチをオンにして、杏寿のサラサラな髪に指を入れる。


「ねぇ、そういえば伊澄くんってなんで美容師になろうと思ったの?」

「え?」


杏寿からの不意打ちの質問に思わず固まる。まさか今になって聞かれるとは思ってなかった。


美容師になろうと思ったきっかけ、か。瞬間的に高校時代のことが頭に過ぎって自然と苦笑が零れた。



* * *

高2に上がって新しいクラスになってはじめて杏寿を見た瞬間をいまだに覚えている。

大人びた顔立ちに、凛とした佇まい、澄み切った涼やかな眼差し、そのどれもが綺麗で雰囲気が周りの同級生と一線を画していた。それに一見大人びて見えるのに、どこか表情にあどけなさもあって目が離せなくなった。きっと一目惚れだったんだと思う。


確立された自分の世界観を持っているようで、あまり大勢と群れることもない。きっと自立した子なんだと思う。かといって群れてる同級生を冷めた視線で見るわけでもなくて、話しかけられれば誰にでも愛想よく返す。


そんな彼女に、なぜか俺だけ避けられていた。



「あ、水篠おはよう」

「え…お、はよう」


挨拶すればぎこちなく返され、


「水篠さっきの授業爆睡してたじゃん、珍しいね。寝不足?」

「…まあ、うん」


なるべく自然に話しかけてはみたけれど返事は素っ気ない。


…いや、自然に話しかけたつもりだったけど、よく考えれば授業中ずっと見てましたって言ってるみたいで気持ち悪いよな。


言った直後に気づいて慌てて「いや俺保健委員だからさ!クラスの皆の健康状態ちゃんと確認しないとだし!」と付け加えるけれど、「…そうなんだ、」とさっきよりも少し低いトーンで返される。
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