セカンド・ファーストラブ
伊澄くんが消えたドアの先をムッとした顔で見つめても、気持ちは晴れない。


最近家に帰ってくるのが遅い時もあるし、私に隠し事してるのは確実だし、こういう時ってどうするのが正解なんだろう。


本当はちゃんと問い詰めたい気持ちはある。だけどそれが原因で最悪なことになったらって考えると躊躇ってしまうし、かといって黙ったままでいられるほど私は物わかりがいい訳でもない。


それに伊澄くんは今まで私に隠し事したことはなかったから。


だからそんな伊澄くんが隠し事するってことはよっぽどのことだと思う。


「·····はぁ、」


ソファに蹲ってクリーム色のクッションに顔を押し付けて唸った。

お風呂上がりで髪も乾かさないまま。



その時スマホの通知音が部屋に響いた。私のじゃない、伊澄くんの。


クッションに押し付けていた顔を上げると、伊澄くんのスマホがソファの前にある机の上に置きっぱなしになっていて、ロック画面に映ったLINEの通知が見えた。


原田麻美:じゃあ明日楽しみにしてるね


画面に映ったその文面の意味をゆっくりと咀嚼する。生まれてきてはじめて自分の視力の良さを恨んだ。


「·····」


あまりの衝撃でもはやため息すらも出てこなかった。疑わしいとは思いつつも、なんだかんだ私は伊澄くんのことを信じていたから。


今だってまだ信じていたい。だって好きだもん。


俯いた拍子に髪が前に流れて視界に入り込む。

私の髪、これからもずっと乾かすのは俺の役目って、言ってくれたじゃん。


目の奥が熱くなってきて、またクッションに顔を埋めた。きっと私の涙でクリーム色のクッションには黄色の斑点ができてる。
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