君との恋の物語-Obverse-







ハーベスト前。待ち合わせの10分前に着くように来たら、既にそこには君がいた。
『おう、おはよう。』
「おはよう!」
なんかこう、ちょっと拍子抜け。デートって大体男が遅れてきて、ごめーんまった?的な展開を予想してたから。いや、小説の読みすぎか。
『楽しみだな。君の名は?ってちょっとリアルに言ってみたいセリフだよね』
「うん、言ってみたいけど、言われてみたいセリフでもあるね。なんか、ロマンチック」
なんて他愛もない会話をしながら映画館へ向かう。なんかいいな、この平和な感じ。2人っきりっていいな。




『ぎりっちょさ、ポップコーンは塩?キャラメル?』
「うーん、塩かな。あ、飲み物は炭酸じゃないやつね!」
とかちょっと思い切ったことを言ってみた。えー?とかは?とか返ってくるかと思いきや。
『あー、わかってるって。』
ん?なんか優しい。君は、本当にあの君ですか‥??



席はなかなかいい場所取れました。
ちょっと後ろ寄りの真ん中。スクリーンに向かって左側が私。右側に君。
ものすっごくいい話だった。なんか、ロマンチックで切なくて‥詳しくは、劇場でご覧ください!!笑
実は、映画の内容なんて半分くらいしか入ってこなかった。だって、隣に君がいるから‥。いつも皆がいるところにいる君が、今日は一人で隣にいるから。デートっていうか、二人で出掛けたのはこれが初めてじゃないのに、なんか今日はちょっと違ったかも。すっごく嬉しくて幸せで、でもなんかちょっと、切なかった。映画がそういう話だからかもしれないけど。
ねぇ、君はいつもの、そのちょっと何考えてるかわからない表情で、今何を考えてるの?
『ねぇ』
急に声を掛けられて我に帰る。
「えっ?なに?」
『君の名は!』
「え?」
『君の名は??』
「‥さぁ、なんでしょうか??」
『おいおいおいおいー!普通に答えちゃうんかい!せっかく映画っぽいトーンで言ってるのに!』
「あぁ、ごめん。」
そんなこと考えてたんかい。
『映画だと同時だけど、まぁそれは無理として、君の名は!って言ったら同じようなトーンで返そうぜ!雰囲気大事!!』
って楽しそうだな‥。
「わ、わかったよ」
『よし。‥君の名は!』
「君の名は!」
超絶恥ずかしいんですけど。
『いいね!最高!!やればできるじゃんぎりっちょ!!』
だからぎりっちょって。
『今日はこの後も何回か言うんでよろしく!!』
すごいな君。人前でよくこんなこと何度も言おうとするよね。



それからマックでお昼を食べて、ゲーセン行って、ちょっと買い物して、スタバでお茶して。なんか普通のデートしました。
いいなぁ、始めはあんなに緊張してたのに、君といると、安らぐっていうか‥素でいられるっていうか‥。トキメキ成分より安らぎ成分の方が多い人。でもトキメキ成分もちゃんと入ってますみたいな‥CMか。

今は、どこに向かってるんだろ。なんとなくついてきてる。
『よし、着いた。戻ってきたね!』
あー、メリゴーランド。
「え?なに?ここ目指してたの?」
『そう。スタートとゴールは同じ場所がいいんだよ。』
「そうなんだ‥」
そうか、デートももう終わりなのか‥。
『夢の国の出入り口って一ヶ所しかないだろ?あれは、全ての人に同じところからスタートしてもらって、同じところにゴールしてもらうためなんだよ。夢の始まりと、終わりね。』
「そうなんだ‥」
相変わらず色々なこと知ってるんだな‥。でも、このデートは夢だったの?なんでそんな切ないこと言うんだろ。私はもっと君と一緒にいたい。夢で終わらせたくないのに‥。
『乗ろうよ。』
「え?」
『メリーゴーランド!』
「いいけど‥」
なんで今?
『よっしゃ!』
って先に並んでるし。ひょっとして、この切ない感じを察して元気付けてくれたとか‥?それはないか。

『俺が馬に乗って、さぎりが馬車に乗るのと、二人とも並んで馬に乗るのどっちがいい?』
「うーん、並んで馬‥かな」
あれ?今さぎりって
『並べるのか、さぎりと。いいね。』
え?なに?
って聞こうとしたら、入り口が開いて誘導が始まる。なんとなく聞きそびれてしまった。
メリーゴーランドなんて、本当に久しぶりだったけど、君と一緒に乗ってるのは結構幸せだった。
小さい頃、それこそメリーゴーランドに乗るような年齢だった頃は、君のこと。なにも知らなかったのに、今の年齢になって、一緒にメリーゴーランドに乗るって、なんかお互いの過去を答え合わせしているみたいな感覚になった。今、一緒に乗ってるのは君なんだけど、乗りながら小さい頃にメリーゴーランドに乗ってたことを思い出してる。不思議な感覚だった。
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