聖女の汚名返上いたします!私は悪徳大魔女ですが?
 思わず目の前の男と手を取り合って喜びを分かち合いたくなるシャルロッテだが、男は全力で拒否する。そもそも彼に実体はなく、触れられそうもない。

 ヘレパンツァーは崩されていた調子を取り戻して体裁を整え直し、再びシャルロッテに問いかける。

「とにかくお前の望みはなんだ? 地獄帝国でもかなりの高位に就く私を呼び出したのは純粋に褒めてやろう。そこまでして結びたい契約はなんだ? 内容と対価次第では聞いてやらないこともない」

 妖しくにんまりと笑うヘレパンツァーにシャルロッテは軽い口調で説明する。

「もうすぐここに王家に仕える騎士団の面々がやってくるわ。おそらくそれなりの剣の使い手で、この私を倒すために」

「なるほど。そいつらを蹴散らせと」

 納得した表情を見せるヘレパンツァーにシャルロッテは素早く『違う、違う』と否定した。おかげで彼は眉根を寄せる。シャルロッテは先を続けた。

「まぁ、ある程度張り合って派手に戦うつもりではいるわ。手強(てごわ)い相手だったと思わすほどにわね。ただ、私は死闘の末に泣く泣く負けて隠居するの」

「負けるのが目的? お前は何がしたいんだ」

 ヘレパンツァーは顔を歪めたまま鼻を鳴らす。しかしシャルロッテは陽気なままだ。

「だから、負けたとしても『王家に(あだ)をなした最恐の大魔女シャルロッテ』の噂と伝説は人々の間で語り継がれ、私は誰もが認める伝説の大魔女となり皆が恐れ平伏す存在になるでしょ?」

「理解できないな。そこは俺と組んで相手を返り討ちにするべきだろ」

 元々負けん気の強いヘレパンツァーが鼻を鳴らす。しかしシャルロッテがすぐさま打ち消した。
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