聖女の汚名返上いたします!私は悪徳大魔女ですが?
 母親は沙織の発達を本気で心配し、思い詰める表情が多くなった。それを見て、幼心に魔女を目指すのは隠すようにしようと決心したのだ。

 他の同年代の子どもと同じように振る舞えば大人たちは安心した。

「お前の場合、内容よりも絵が壊滅的だったのもあるんだろう」

「そっち!?」

 勢いよく振り向きヘレパンツァーにツッコむ。また小馬鹿にした顔をしているのかと思っていたら、意外と神妙な面持ちだ。彼はなにも言わずシャルロッテを抱き上げる。

「で、本当に城に戻るのか?」

 至近距離となった悪魔が問いかける。赤い瞳に映る自分を見て、シャルロッテはわずかに肩を落とした。

「そうね。一応、フィオン・ロヤリテート分団長の言い分もわかるし。私の輝かしい大魔女伝説のために直接王家の人間の情報を得るいい機会と捉えましょうか」

「あの男に踊らされているんじゃないか?」

 ヘレパンツァーの指摘にシャルロッテは口角を上げた。

「ダンスは得意じゃないの。どうせなら転がしてやるわ」

 挑発的な物言いにヘレパンツァーは呆れた面持ちになり目を閉じた。意識を集中させる。

 やはり移動魔術は骨が折れるが、今度は先に居た場所に戻るのだから前回のような失敗は許されない。自分の悪魔としての沽券にも関わる。

「今度は失敗しないでよね」と余計な声援に顔をしかめるが、どうしてかそこまで嫌なものには思えなかった。

 シャルロッテを馬鹿で単純だと見下す一方で、洞察力に優れ、魔術においてもそれなりの使い手だとは認めている。

 変わった魔女だ。

 彼女のような契約者には会ったことがない。だからこそ、もう少しだけ一緒にいてやってもいいと思えるのかもしれない。

 澄み渡る青い空の中、風の流れが変わり竜巻のような渦にふたりは静かに消えていった。
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