聖女の汚名返上いたします!私は悪徳大魔女ですが?
「体調はどうだい? 丸二日眠っていたんだ」

 そんなに、というのは声にしない。彼の存在でシャルロッテはある程度の現状を把握する。

 おそらくここはファートゥム城。長きにわたりこの国の王として君臨するファートゥム家の所有物だ。

 シャルロッテの暮らすグランツ王国は他国に比べればそれほど大きくはないが、豊かな自然と土壌に恵まれ人々はのどかに暮らしていた。

 そんな中、王家は国の財産ともいえる自然を極力残す一方で、公共事業や騎士団の結成などを指揮し一次産業中心の生活から雇用を生み出していった。

 とくにファートゥム家の大きな功績は、貯水技術や水道の体制を整え、民に清潔な水を供給する仕組みを作ったことだ。それも国の中心部を流れる雄大なグランツ川があってこそ。

 王都アクワを中心に国は栄え、王家の支持は増していき今では確固たるものになっている。

 そして王都アクワとイグニスの間、グランツ川沿いのヴェントゥス山地の上にファートゥム城は建っていた。城の正式名称はアンデアファートゥム。運命のほとりを意味する。

 頑丈な城壁の上部は白く、青い尖塔の屋根とのコントラストは遠くからでも目を引く優雅な外観だ。

「で、どうして私は牢屋ではなくこんな好待遇なのかしら?」

 いつもの調子を取り戻し、挑発を交えて尋ねるとフィオンは困惑気味に微笑んだ。

「君は不穏な動きをしていたクローディアの企みを暴いて止めた。つまり王家に害をなすものから我々を守ったことになる。いわば恩人だからね」

 フィオンの言い分に対し、シャルロッテは嘲笑を浮かべる。

「どうしてそうなるの? 私は魔女よ。そしてクローディアを人質にとってあなたたちをおびき寄せようとした。私がクローディアをそそのかした張本人だとは思わない?」

 むしろ、そう思ってもらいたいんですけど!!

 本音は顔には出さずに余裕たっぷりにフィオンを見つめていると、彼は優しく目を細める。懐かしさを湛えた、小さな子どもに対するかのようなものだった。
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