聖女の汚名返上いたします!私は悪徳大魔女ですが?
「追われるにしたってその理由が最悪よ! 次期国王と謳われるラルフ王子を魔の手から救いし聡明な魔女? 王家のために尽力した彼女を探し出せ? 冗談じゃないわ!」

 聡明なのは否定しないけれど、と内心で付け足し行儀悪く派手に舌打ちする。シャルロッテは膝を抱え、唇を強く噛んだ。

「フィオン・ロヤリテート分団長もとんでもない嫌がらせをしてくれるじゃない」

 王家直属のエーデルシュタイン騎士団から追われるとは、ヘレパンツァーの言う通り伝説の大魔女としては願ったり叶ったりの状況だ。

 ところが彼らがシャルロッテを探している理由は、罰するためでも火あぶりにするためでもない。ラルフ王子のひいては王家の危機を救った者として城に迎え入れる気だ。

 このままでは民衆に憎悪どころか聖女としてむしろ崇め奉られてしまう。伝説の大魔女としてはこのうえない屈辱だ。

「ったく、王子が外交のために隣国に出かけている間になんとか連れ戻そうって魂胆ね。それにしても尾ひれがつきすぎでしょ!」

 黙って城から消えたせいである程度騒ぎになるのは読めていた。シャルロッテを逃がしたフィオンはもしかすると王家から責められるかもしれないが、そんなことはシャルロッテの知ったところではない。

 ヘレパンツアァーはしみじみ呟く。

「意外と相手は本気で思っているのかもしれないぞ?」

 シャルロッテはフィオンの笑顔を思い浮かべしばらく思案を巡らせた。たしかに彼は初めて会ったときから自分に対する警戒も敵対心もまったくなかった。とはいえ……。
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