聖女の汚名返上いたします!私は悪徳大魔女ですが?
 なんで……? これ、どこかで読んだことが……。

 言いしれない気持ち悪さが胸を覆う。そして激しい頭痛とともにシャルロッテはその場にうずくまった。

 私、私は……。

『私、世界一の大魔女になるの!!』

 誰かの声が頭の中で響き、シャルロッテはすべてを思い出した。

 シャルロッテの前世は月永(つきなが)沙織という日本人だった。幼い頃、寝る前に両親に読んでもらった童話の類。

 そこに登場する魔女はたいてい悪役や畏怖の存在として描かれていた。綺麗なお姫様に憧れ、なりたいと思う子どもが多い中、沙織はなぜだか魔女に心奪われ、本気で目指そうと決めたのだ。

 両親にせがんで買ってもらった『まじょのやくそく』という幼児向け絵本には、子どもにわかりやすく魔女の生態を説明し、なり方まで書いてあった。

 その中で特に目を引いたのは【まじょになることをほかの人にしられてはいけません】という一文だ。これは幼い沙織の心に深く突き刺さった。

 そっか。魔女になりたいって言っちゃだめなんだ。

 ひとり固く決意し、その日を境に沙織は魔女に関する話はしなくなった。だから沙織が本気で魔女を目指しているなど知る者はいない。

 両親や保育士でさえ、『王道ヒロインより悪役に肩入れしちゃう子っているわよね』程度の認識だった。それも一過性のものだと。

 沙織の作戦は上手くいったのだ。そして彼女は誰にも内緒で、ひそかに魔女を目指すため魔術書を収集し、魔女に関する情報を網羅すべく日々研究と修業を怠らなかった。

 それは子どもの頃だけで終わらず学生時代の青春、さらには社会人の余暇すべてを費やした。それでも魔女になれそうな日は来ない。

 魔女ではなく立派な社蓄となり、仕事の激務でやつれる中で最後は事故であっけなく亡くなった。

 ついに沙織は魔女になれないまま人生の幕を閉じるはめになった。

 満足な人生だった。穏やかな気持ちで目を閉じる。ただひとつ魔女になれなかったのが最期の最後まで心残りだった。
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