聖女の汚名返上いたします!私は悪徳大魔女ですが?
大魔女伝説の第一歩のため踏み台になってください
 激しい爆音と突風が部屋の中に巻き起こった。その衝撃でシャルロッテは、床に仰向けの状態となり、しばし意識を失っていた。

 本棚からいくつかの本が飛び出して床に散乱し、パラパラと天井からなにかが落ちてくる。

 薄暗いが、部屋が軋む程度で済んでなによりだ。シャルロッテはゆっくりと目を開けた。

 淡い紫色の双眸(そうぼう)が姿を現し、辺りを捉える。髪はゆるくウェーブがかかり腰まで長さのある蜂蜜色だ。金色と茶色の中間色とでもいうのか。

 本当にこの部屋は変わっていないのね。薄暗くて、埃臭くて……。

 なんだか泣けてくる。実に三年ぶりにおとずれたシュヴァン家の地下倉庫はシャルロッテがいなくなったあの日のままだ。

 って、思い出に(ふけ)っている場合じゃない!

 そこで自分の置かれた状況を思い出し、がばりと身を起こす。

「ま、まさか、召喚失敗!?」

 ガリガリとチョークで床に描かれた魔法陣を確認する。そこには涅色(くりいろ)の煙霧が起こり、徐々に形を成していった。人の姿になったそれは、明らかに普通の人間とは逸脱している。

 妖艶に光る赤い瞳に透き通りそうな血色のない白い肌。艶のある黒髪は短くも濡れているかのようだ。青年の姿になった黒き存在は、シャルロッテに問いかけた。

(なんじ)、我を呼び出しなにを願う? 契約を結ぶのならば対価として……」

 説明を続けようとしたが、目の前のシャルロッテには届いていないのか、彼女は瞬きひとつせず微動だにしない。呆然と自分を見つめるシャルロッテに、男は口角を上げ魅惑的に微笑んだ。
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