その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「えっ……ち!」
ほとんど悲鳴にも近い、声にならない声をあげると、おーちゃんが無邪気に破顔した。
——その背後で、ちょうど、木の間から見える暗い空を覆い隠すように、パッと光が咲く。
大きな音を轟かせ、ちらちらと煌めきながらおーちゃんの髪を縁取るように照らして、静かに消えた。
その様子が息を呑むほど綺麗で、……わたしは、立ち尽くしてしまった。
「お、始まったな」
おーちゃんがわたしの隣に並び直して、空を見上げる。
花火は次々と絶え間なく上がり、頭上の果てしない黒に、色とりどりの光を散らしていった。
わたしは咄嗟に両手でスマホを構えようとして、……やめる。
代わりにおーちゃんの手をとると、そっと身を寄せた。
おーちゃんがコテ、とわたしの頭に頬を乗せてくる。
「きれい……」
大輪の、一瞬限りの輝き。
華やかで、美しくて、……儚くて。
わたしは、夜空にゆっくりと消えていく光の雫を眺めながら、おまじないがとけてくみたい、などと考えていた。