その後のふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
……さっきは、随分とおーちゃんに、近づけた気がした。
いつものように頑張って背伸びをしていたわけでもないのに。
すぐに、おーちゃんの心に触れられるんじゃないか、ってくらいに。
もう少しで、……。
ふたりの間にある、隙間を……年の差を、とっぱらって、ぴったりくっつけるような感覚がしたんだ。
それが、また、……戻っちゃう……。
——幸せなのに、なんだか怖くて。
——こんなにずっとそばにいるのに、漠然とした不安は拭えなくて。
その度におーちゃんはわたしを安心させてくれるのに、……またしばらくすると、新たに心は忙しなくなる。
“好き”って、心が休まることはないのかな。
こんなに、欲張りが止まらないものなのかな。
胸が高鳴るごとに、……不思議な寂しさが滲んで、泣きたくなる。
「終わりたくない……」
「……ん?」
花火の音が大きくて聞こえなかったのか、おーちゃんはわたしの口元に耳を近づけた。
「今日が、終わってほしくないなって……。おーちゃんとふたりでお祭り来るの、……昔からずっと、憧れてたから」
今度はちゃんと届いたのか、おーちゃんは顔を綻ばせた。
「また来年、来ような」
当たり前のように返された言葉。
それが、わたしの胸をジワリと熱くして——、
「……うん」
おーちゃんの瞳にキラキラと反射している光を目に焼き付けてから、……わたしはそっと、目を閉じた。
つい溢れそうになったものを堪えて、ツンとした痛みをやり過ごす。
……瞼の裏。
闇の中でも、聞こえてくる音に合わせて花火が広がる。
その明滅と同調するかのように、わたしの心は強く、物寂しさを打ち消そうと波打っていた。