竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜

王宮へ

 ハンナの指導は厳しかった。アメリアは刺繍の経験はあったが、ドレスを仕立てるには縫製の前に身につけるべき技術もたくさんあったし、そもそも刺繍とは道具も針の運びもすべてが違った。
 採寸して型紙を起こし、布を裁断する。何度も仮縫いを繰り返し、裾をかがり、刺繍やレースなどの装飾を施す。他にもボタンやフックの取り付け、ボタンの穴かがりなど、覚えることはたくさんあった。そして布地や糸、仕立てる部位によって、気の遠くなるような多くの細かい作業を駆使して縫い上げる。

 小物から始め、町の女性が自分の服を仕立てるくらいのレベルなら半年もあれば良かったろうが、ハンナは彼女の満足のゆく出来でないと許さなかった。何度もやり直しを命じられ、普段着のドレスを仕立てるのに一年かかった。

 そこからさらに一年弱。アメリアは三枚のドレスを仕立て上げた。むろん舞踏会で着るほどのドレスではない。町の人でも着られる、ちょっと贅沢なドレスというところだ。
 ハンナと相談し、ドレスは彼女の知り合いを通じて売ってもらうことにし、アメリアはささやかながら初めて自分の手で稼ぐことも出来た。

「思ったよりも筋がいいし、それに何より良く頑張ったわね」

 三枚のドレスが全部売れた時、ハンナが言った。

「工房を構え、貴族の方向けの贅をつくしたドレスを仕立てるには、当然だけどまだまだ足りない。でも、どこか工房が少ない町で……富裕層向けのドレスを個人で請け負って作ることは、出来るかもしれないわ」

「ありがとうございます、先生」

 ハンナの言葉に勇気をもらい、アメリアは一層手の込んだドレスに取り掛かった。

 そこへ降ってきたのが、「竜の花嫁」の話だった。



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