竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜

図書室で

 アメリアは自分を見下ろすその瞳から、目を逸らすことができなかった。人ならざるものの証だと聞いてきた金の瞳からは、恐ろしさは感じられない。
 早春の柔らかい陽射しを受けた、金の髪が輝いている。ふんわりと肩にかかるその髪は、襟に巻いた薄絹と同じように淡く、上着の青色がほのかに透けて見える。
 髪や瞳だけではない。唇や肌の色も、同じように淡く、ほんのり輝いているようにさえ感じられるのは……アメリアの気のせいだろうか。

 だが、それ以外に変わったところは見えない。確かに髪や瞳は普通の人と違う。でもそれは色が違うというだけだし、まして「竜」を伺わせるところは微塵もない。ひそかに恐れていたような、とがった爪や牙などないようだ。

 あまりに長い間、まじまじと見つめていたせいだろうか。ヴィルフリートが僅かに困ったように首をかしげた。だがアメリアはそれにも気づかず立ち尽くしている。

 ――これが……、この方が、竜。

 確かに、ギュンター子爵も言っていた。見るからに人間離れのした、恐ろしい外見では決してない、と。しかしアメリアはこれまで、どうしてもその姿を思い浮かべることができなかった。
 こうして会ってみれば、それも仕方のないことかもしれなかった。まさかこんな美しい外見をしているなどと、どうして想像することができるだろう……? 

 それだけではない。どんなに恐ろしい方かと恐れていたのに、アメリアに微笑みかける表情は優しかった。強張っていたアメリアの身体から、少しだけ力が抜ける。
 そこで初めて自分が、夫となる相手に挨拶もせずに立ち尽くしていたことに気がついた。

「し、失礼致しました、ヴィルフリート様。アメリアでございます」

 慌てて頭を下げて挨拶をするが、本来なら当然言うべき『末永くよろしくお願い致します』という言葉が、どうしても口から出せなかった。

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