竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜

 アメリアをベッドに下ろすと、ヴィルフリートはやや性急に、アメリアのドレスを剥ぎ取っていった。

「ヴィルフリート様……」
「アメリア?」

 見れば頬どころか胸元まで真っ赤に染めて、アメリアが涙目で見上げている。ただの恥じらいではなく、珍しく何か言いたげだ。

「どうした、アメリア」
「だってヴィルフリート様、……恥ずかしいです」

 ヴィルフリートは首をかしげた。

「なぜ恥ずかしがる? 夫婦なのだから当たりまえのことだろう?」
「だって、まだ明るいですし……。それに、レオノーラさんにもあんなふうに言うなんて……」
「そういうものか?」

 ヴィルフリートは困ったように笑って、アメリアの頬に口づけた。

「だがアメリア、許してくれ」

 金の瞳が、アメリアを愛おしそうに見つめる。

「私は花嫁を迎える年になって、今年で十年だ。なかなか(つがい)に巡り会えず、ずっと苦しかった」
「ヴィルフリート様……」
「でも君に会って分かったんだ。私はこの十年、君を待っていたんだと」

 片手でそっと頬を撫でられ、アメリアは小さく震える。

「大切な君の嫌がることはしたくないが、正直に言っていいなら、一瞬だって離れていたくない。一日中でも、君に触れていたいんだ」
「……!」
 
 ――この人は、なんて……。

 口を開きかけたアメリアは言葉を失った。頬がかっと熱くなり、息苦しささえ感じる。

 ――竜というのは、みんな……こんなふうに深く、激しく愛するものなのかしら? それとも、ヴィルフリート様だから?

 ――同じだけの想いを返せる自信は、まだない。まだ少し、恥ずかしいけれど。せめてヴィルフリート様の気持ちを、愛情表現を、素直に受け止めよう。

 そう思ったら、ようやく口を開けるようになった。

「ヴィルフリート様、 嬉しいです」

 頬を包んだ手にそっと触れ、ヴィルフリートを見上げる。

「でも、お食事だけは……遅らせるとみんなの仕事を増やしてしまいますから。時間にいただきましょう?」
「分かった。君の言う通りだ、アメリア。次からはそうするよ」

 ――次、って……。

 アメリアは思わず笑ってしまった。今はそうする気はないのか。

「もう、ヴィルフリートさまったら」

 くすくすと笑う唇を、ヴィルフリートが塞ぐ。アメリアももう抗わず、目を閉じて身を委ねる。
 その日の夕食は、いつもよりかなり遅れた。
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