竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
 アメリアが十四歳になった時、義父の伯爵は「もう教育係という歳でもなかろう」と、教育係に暇をやった。どうやらプライドの高い教育係は、求める給金も高かったらしい。
 代わりに初めての奉公に出る口を探していたラウラを格安で雇って、アメリアの侍女にした。これがアメリアの最大の転機になった。

 ラウラは王都の生まれで商人の娘。アメリアより四つ年上で、町のこともいろいろ知っていて顔も広い。いわゆる貴族のお嬢様向けのちゃんとした教育を受けた侍女ではないので、大雑把で間の抜けたところもある。
 家にいても家族で顔を合わせることも少なく、会っても挨拶しかしないようなカレンベルク家において、ラウラは主人との距離感など全く気に掛けず、実に気さくに話しかける。初めこそびっくりしたが、それがかえって気が置けず付き合いやすかった。
 
 ――もしかしたらラウラなら、私の味方になってくれるかもしれない。

 アメリアは時々、彼女が喜びそうな小物や菓子などを贈った。それから、仕事ぶりを褒めたり感謝の言葉を伝えるよう心掛けた。ちょっと小細工が過ぎるかとも思ったけれど、ラウラはいつも素直に喜んでくれる。それが純粋に嬉しくて、いつかアメリアの喜びにもなっていた。
 万事おおらかなラウラに、自分が思っているよりもアメリアは助けられていた。そして密かに考えていた計画が、着々と進みはじめたのだった。

 アメリアの密かな計画。それは「一人でも生きていける知識や技術を身につける」こと。およそ貴族の令嬢が考え付くことではないが、アメリアは真剣だった。

 まずは、ラウラの服を借りてこっそり町へ出かけた。次第に町の様子に慣れ、女性がたくましく働く姿にも触れて、アメリアはますます知識の習得に励んだ。
 ラウラの両親に協力してもらい、邸では絶対に入らせてもらえない厨房で、料理も教えてもらった。家族に関心を持たれていないのが却って幸いして、部屋にいなくても気付かれることはなかった。
 
 

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