竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
 どうしたら、少しでも辛くないだろう。全く興味の持てない教育係のお説教を聞きながら、アメリアは必死に考えていた。

 ――仕方ない、誰と結婚させられるかは、私にはどうにもならない。とりあえず我慢するしかないわ。でもその後はどうなるか、誰にも分からない。

 諦めにも似た気持ちだが、アメリアは開き直った。そう、父のことだから親子より離れた相手に嫁がされる可能性だってある。そうしたら、いつか飽きられたり――もしかしたら寿命でも――して、アメリアは自由になれるかもしれない。

 ――一度結婚してしまえば、もうお義父様の言うことは聞かなくていいはず。それならその時こそ、自分のしたいようにするわ。

 世間知らずな娘の、甘い考えに過ぎなかったかもしれない。だが、アメリアは真剣だった。

 ――それに、もしかしたら離婚されるかもしれないし、追い出されるかもしれない。そうなった時に、町の人みたいに手に職がないと生きて行かれないわよね。

 それは新鮮な考えだった。町の人たちは、どんな仕事をして暮らしているのだろう? 少女のアメリアには、それさえあれば自由に生きていけるような、無限の可能性を得られるような気さえした。しかし当時のアメリアは、一人で外出させてもらえなかった。ならば、邸の中で出来ることを頑張るしかない。

「アメリアお嬢様。最近は刺繍に読書、それに書き取りも努力されていますね。大変結構です。これなら良いご縁談を得られましょう」

 教育係が満足そうに笑ったが、アメリアは決して幸せな結婚のために頑張った訳ではなかった。

 ――襟元やハンカチーフに刺繍を入れたものは、町の人も使ってる。刺繍が上手なら、これで食べていけるかもしれないわ。

 アメリアのすべての努力は、「ひとり立ち」に向けたものだった。ちなみに書き取りは、世の中には「代書」という職業があると知ったからだし、どんな職に就くにも知識はあったほうが良いから、読書にも励んでいただけだ。
 ついでに見た目も、見苦しいよりはいくらか有利だろうと思い、お手入れや化粧、ドレスの着こなしなども真剣に学んだ。これも、普通の貴族の娘とは完全に違う理由だったけれど。



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