私に恋を教えてください
春野は軽く息をついたあと、言葉を続けた。

「一時期はね、割り切れなかったの。好きになっちゃいそうだった。それはそうよ。けど、須藤課長は私に恋をしていないって、分かっていたから。だから、無理だなぁって思ったの」

「ごめん、気づいていなくて」
告白っぽい感じなのに、謝られる事ほど切ないことはない。
春野は苦笑する。

「謝らないでください。過去の事なので」
「じゃあ、今は春野は恋をしているってことなのか？渡したくないとか、こっちを見て欲しいとか、抱きしめたいとか、そういうのはどうなんだろうか」

「そんな気持ちなの？」
「恋なんて、分からないよ。この年だし。そんなの、おかしいだろ？」

「そうかな？今まで真剣になれなかったのは、そこまで好きになった人と出会わなかっただけかもしれませんよ。」

冷静にそう返しながら、
（渡したくない？こっちを見て？須藤課長が⁉︎）
どれだけ秋波を送られてもスルーし続けてきたこの人が？と春野は思う。

それこそ、恋なんじゃあないのかなあ……。

本当に食べないのか？とパスタを取り分けながら、須藤が春野に言う。

春野は「大丈夫です」と笑顔を向けた。

驚くべき鈍さなんですけど、大丈夫かしら……この人……。
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