とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
 本日の勤務を終え、ロッカーで着替えている時だった。

 中村からメッセージが一件届いた。数日ぶりのメッセージには、次週の金曜の夜に食事に行かないかと書かれている。

「おっ! 中村さんからお誘い!?」

 隣で着替えていた沙織が目ざとくそれに気が付いた。

「ちょっと、盗み見しないで」

「ごめんごめん、つい。それで、デートするの?」

 中村は好印象な人物だ。年相応の落ち着きがあって、ある程度話も出来て、きちんと働いている。理想的な男だろう。

 だが、美帆の中で何かが引っかかっていた。

 あの関西弁男に言われたからだろうか。なんとなく中村とはうまくいかないような気がした。

「うーん……正直迷ってる」

「中村さん、あんまりだった?」

「そんなことない」

 美帆は首を振った。中村は恐らく十人の女性と食事させたら九割はよい印象だと答えるぐらい「いい人」だ。

 だが、それ以上に残るものがない。なんだか今までの失敗を繰り返すような気がした。

「無理して行く必要ないよ。美帆が嫌だと思ったらやめていいから。実君の先輩だからって気にしないで」

 そうはいっても大事な友人の旦那の先輩だ。無下には出来ない。

 何かあった時に沙織が悲しむことになるだろう。今更だが、迂闊に引き受けるべきではなかったかもしれない。

「平気。悪い人じゃないし、駄目だったとしてもお友達ぐらいにはなれそうだから」

「本当?」

 本当もなにも、そうするしかない。諦め続けていたら彼氏なんてできないだろうし、これは自分の欠点を知るいい機会だ。

 美帆は中村にオーケーの返事をした。場所はまた中村が考えるということだったが、なんだかまた不安が湧いてきた。
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