とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
「社長! 彼女さんめっちゃ美人ですね!」

 受付から離れた途端、古谷はウィスパーヴォイスで囁いた。だが、興奮しているせいで顔が半笑いなのか驚いているのか分からない。

 文也は当然だと言わんばかりに頷いた。

「せやろ?」

「はあ〜隣にいた人も美人でしたねぇ……。さっすが藤宮の受付嬢……まさかこの目で見れる日が来るとは思いませんでした……」

 文也と古谷はロビーにあるソファに腰掛けた。
 
 今日はただの挨拶だが、古谷も大企業相手で緊張していたようだ。しかし、今ので少しは落ち着いたらしい。

「社長って面食いだったんですね。どうやって口説いたんですか?」

「まあそれはかくかくじかじか……」

「あれだけ美人だったらきっとモテモテですよ。いいな〜私もあれぐらい顔面偏差値高ければもっとモテたのに」

 古谷が振り返った。つられて文也も振り返った。その先にある受付には美帆がいてばっちりと目が合う。美帆は驚いた様子だった。

「……モテたらモテたで大変やけどな」

 視線を元に戻しため息を漏らす。

 ふと気になって周囲を見回した。瀬尾はいないようだ。ひとまずほっとする。

 だが、油断はできない。美帆と瀬尾が同じ職場で働いている以上接触は避けられない。美帆の顔を見て一瞬忘れていたが、問題はなにも解決していない。

「大丈夫ですよ。社長も格好いいですから! きっと彼女さんもそうだと思いますよ」

「お前ええ奴やなぁ。おだててもなんも出えへんで」

「じゃあ、また今度藤宮に連れて来てください」

「なんで?」

「イケメンがいっぱいいるので」

「お前なあ」

 そんな冗談に笑っている間、文也は美帆がどんなことを考えているかなど想像もしなかった。
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