とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
  美帆は仕事終わり、意気込んで席を立った。

 ────やっぱり気になる。

 あれからまた数日が過ぎた。文也とはタイミング悪く仕事が重なってなかなか会えずにいる。それが本当の理由なのかそうでないのかは分からない。

 だが、このままにはしておけない。本当のことを確かめなくてはならない。

 仕事が終わり、向かったのは文也の会社だ。

 会社を直接尋ねたことは一度もない。今まではいつも文也が迎えに来てくれていた。

 だが、藤宮コーポレーションの本社と違い津川フロンティアがあるビルはいくつかの会社が集まった集合オフィスビルで、そこまで大きなビルではない。ビルの前で立っていると目立ってしまう。

 美帆は真向かいにあるカフェに行き、ビルの正面が見えそうな窓際を選んで座った。

 ────なんだか探偵みたい。ううん、ストーカーよね。こんなの……。

 今日は文也と約束をしていない。本当に突撃訪問だ。

 だが、文也はいつも帰りが遅く、定時ピッタリに出てくるかは分からなかった。

 カフェに入って二時間ほど立った頃、美帆は自分がしていることが馬鹿馬鹿しく思えてきた。こんなところで二人の相引きシーンを盗み見しようなんて滑稽だ。

 だが、二人はいまだに会社から出てこない。

 勘違いならいい。ただ、頭の奥に何かが引っかかって、どうにも安心できなかった。良樹にヤキモチを妬いていた文也が簡単に浮気するだろうか?

 美帆はインターネットの検索画面に「ヤキモチ」、「浮気」と検索した。見事なほど思っていたことがヒットして、目を覆いたくなる。

 ────ヤキモチ妬きな人は浮気しやすい。ってことは文也さんは浮気しやすいってことにならない? あ、でもそれだと私も浮気症ってことになるか……。

 そんな馬鹿馬鹿しいことを考えていると、ビルのエントランスからまた人が出て来た。

 美帆は目を見開いた。文也と、その隣に古谷がいたからだ。

 二人は仲良さげに肩を並べて歩いている。これから帰るのだろうか。いや、それとも二人でデートなのだろうか。

 いても立ってもいられなくなり、会計を済ませて外へ出る。だが、二人の姿は既にどこかへ消えていた。

 ────ほ、本当に浮気してたの? 文也さんが……?

 冗談だろうか。夢なら覚めてほしい。

 だが、確かにここ最近あまり誘われなくなっていた。文也は夜遅くなるからと言って遠慮して、なかなか会う時間が取れない。

 それは以前からだから仕方がないと気にもしなかったが、まさか古谷と浮気していたから会いに来なかったのだろうか。

 あんなシーンを見てしまうと嫌なことしか考えられない。

 美帆は呆然としながらノロノロと駅に足を進めた。
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