とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
「きゃーっ! 加賀屋じゃないですか! どうしたんですこれ!?」

 終業後、美帆は津川から貰った菓子を受付嬢達で分けた。

 反応は思っていた通りだ。喜ぶだろうとは思っていたが、津川からもらったものだと思うと、その反応も面白くない。

「お客さんがくれたの」

「美帆の彼氏候補よ」と沙織が付け足す。

「ちょっと! 誤解されるような言い方しない!」

「えっ美帆さん彼氏できるんですか!?」

「どんな人?」

 受付嬢達は矢継ぎ早に尋ねてくる。美帆は頭が痛くなった。相手があの津川というだけでも十分嫌すぎるのに、受付嬢達に誤解されたら変な噂が広まってしまう。

「彼氏じゃないし、候補でもない。ただのお客様。挨拶に寄ってお菓子をくれただけ。以上」

「と、美帆は言ってますがいい感じです」

「こら! 沙織!」

「というわけで、みんなで暖かく見守ってあげましょう〜」

 パチパチ、なんて拍手が聞こえてきたが全く喜べない。沙織も他の皆も勘違いしている。お菓子に手懐けられるなんて津川の思う壷だ。

 ────けど、本当に何を企んでるとしたら、何を……?

 受付嬢と親しくなるメリットはいくつかあるが、男性視点で考えるならば「可愛い女性と付き合える」ことだろうか。というか、ほとんどがそれだろう。

 受付嬢はモテるし、そう思われている。大手企業の受付嬢ならそれだけでグレードが高い。
 
 しかし、津川は明らかに自分だけを狙っていた。独り身なのは自分だけだが、そのことを津川が知っているのだろうか。
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