今は秘書の時間ではありません
「お前達はなぜ今日ここに来た?」
社長が冷めた声で質問する。

集まった数人の社員が目を見合わせながら答える。

「俺たちホテル事業について反対です。採算度外視してます。また、あの立地から集客は見込めないと読んでいます。いくら言っても聞いてもらえなかった。リサーチしていてもわざわざあそこに行く意味があるとは思えなかったんです。」

「でも、会社の方向性として作ることになるなら最大限の努力をするつもりでした。でもこの前、社長に言われやっぱり自分たちの考えは間違っていなかった、と思いました。」

「なのでもう一度見直す提案をすべきと専務を始めチーフなどにも言いましたがみとめてくれませんでした。」

それぞれが今の体制をよく思っていないようだ。

だからといって信用していいのかはわからない。

内通者になる可能性もある。

きっとこういうことを見極めるために社長はふざけていたのかもしれない。
この姿の社長をみてどう思うか、と。
こっちを振り向いたから信用できる、なんて単純な物ではない。

でも…この後社長はどうするんだろう。

すると社長は口を開いた。
「君たちが信用のおける人物なのかはわからない。今までの俺を見ていたはずだ。こいつ大丈夫か?と思っていたんじゃないか??それをこの前の一件だけで寝返るなんて不思議でならない。」

「ハハハ…そうですね。俺らみんなで話しました。正直あなたについていっていいものか…。でも、これは仕事です。俺たちの意見はホテルは無理だと判断したのでこちらに来ました。俺たち家族もいる。ここでこの会社が倒れたら困りますから。」

「社長がどうこうよりも会社としてベストな方…と思いこちらに来ました。こちらも正直なところ社長を信用していいのかはまだわからないので。」

なんだかお互い腹の内を探り合うような話し方だったが結局のところ会社のため、という利害は一致しているということがわかった。

「そうだな。俺のことも信用に値するかわからないよな。お互い様だな。こんなふざけた社長だしな。これからの俺を見て判断してほしい。」

社長はその場にいた社員みんなと握手をした。

「ひとまずホテルは白紙に戻したいと思っている。だが、土地買収の話は進んでしまっており、これを白紙にするには他者に迷惑をかけることになる。だから土地はこのままで、これを活用できるプランにしていきたいと思う。力を貸してほしい。」

まさかの社長が頭を下げた。

その場にいた社員は皆すぐに言葉が出なかった。
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