どうにもこうにも~出会い編~
 これってまさか、痴漢…?

 やだ、動けない。怖い。どうしよう。

 私が無抵抗であることをいいことに、その手はお尻から前に手を伸ばそうとする。


 気持ち悪い…!!


 そのときぐいっと私の腕が強い力で引かれた。

 「大丈夫ですか」

 この声は…。

 「西島さん…?」

 「偶然あなたの姿が見えたのですが、なんだか様子がおかしかったので」

 こんな偶然ってあるんだろうか。たしかに行き帰りに同じ電車を使う可能性があるのは分かるけど、まさかこんなタイミングで出くわすなんて。

 彼はドア側に私を引き寄せ、片腕をドアについて私を守るかのように私の後ろに立った。
 
 「だ、大丈夫です」

 「もう少しで着きますから、辛抱してください」

 彼の心地良く響く低い声と規則的な呼吸の音が私の耳をくすぐる。顔が見えない分、耳が敏感になり熱くなっていくのを感じる。カーブで車体が揺れる度に彼の身体が私の身体が重なり合う。

 「すみません」

 「だ、だだ大丈夫、ですので」

 これは、非常に心臓に悪い。耳どころか身体全体が火照りだす。
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