どうにもこうにも～出会い編～

　「今日は、来てくれますか？」

　「行けたら、行きます」という俺の答えになんだか不満そうにむくれて寂しげにつぶやいた。

　「来れないかもしれないってことですね…」

　その顔は、ずるい。収まりかけていたモノがまたむくむくと頭をもたげた。まだ春先で寒いと思ってトレンチコートを着てきてよかった。

　「ああ、行きます。絶対行きます」
　と、言うしかないだろう。そんな顔をされては。

　彼女の火照った顔を指摘したら何やら慌てた様子で逃げるように去ろうとする。しかしいきなりくるりと振り返ったかと思うと満面の笑みを浮かべながら大きく手を振って言った。

　「西島さん！今夜、会えたら会いましょう！」



　俺だけに向けられたその笑顔。

石原慧。

俺は君の笑顔を見るためにあの居酒屋に通っているなんて言ったら、君はどんな顔をするだろうか。