どうにもこうにも~出会い編~
 「こんな雨の中濡れて帰る気ですか?風邪を引いてしまいますよ」

 「傘、忘れてしまって…」

 「良ければ私の傘に入ってください。駅ですか?」

 「あ、はい」

 「私も駅に向かいますので、ご一緒させてください」
 
 彼はにこりと微笑んだ。いや、暗かったので微笑んでいたのかどうかはよく分からなかったが、声の調子から判断してきっと微笑んでいたに違いない。

 「あ、ありがとうございます」

 「いえいえ」

 物腰の柔らかい人だ、と思った。

 「あ、すみません、お酒臭いでしょう」

 「いえ、全然気になりませんよ。言っても熱燗一本しか飲んでないじゃないですか。ずっとお店にいた私のほうがずっと臭いですから」

 と言いつつ気になって服の袖に鼻を近づける。

 「わ、やっぱくさいっ。居酒屋くさっ。すみません私やっぱり臭いです」

 「ははは。大丈夫ですよ。臭いもの同士、結構なことじゃありませんか」

 この人がこんな風に普通に笑うところを初めてみた。
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