もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜
そうだ、ショックのあまり何も言わずに先に帰ってきてしまったんだ。さすがにそれは申し訳ない。
「もしもし、先輩ごめんなさい」
「奈湖? ごめん! 今日、休みのクラスメイトの代わりに日直やらされて……連絡したつもりが送れてなくて、待ったよね? 本当にごめん。今どこにいる?」
「お疲れ様です。……えっと、実は先輩が先に帰っちゃったのかと思って、今駅にいて」
「えっ、あぁ……そっかぁ、そう思うよね、ごめんね。けど、今度から俺がなかなか来ないときは、遠慮せず連絡してくれて平気だからね?」
まさか、教室の前で話を聞いていたなんて言えなくて、咄嗟に嘘をつく。
スマホの向こうからは、心底残念そうな先輩の声がした。少しの罪悪感が湧いたのと、先輩は仕方なく彼女にした私に、よくここまで優しく出来るなと妙に冷静になる。
そして、冷静になっても尚優しい先輩にドキドキしてしまう自分に、内心深い溜息が出た。
これ以上話しているとボロが出そうで、私は駅に向かい早足で進む。
「先輩、そろそろ電車に乗るので────」
「分かった。気をつけて帰るんだよ? あぁ、それと」
「はい」
「本当は、直接誘いたかったんだけど。日曜、できたら空けておいて」
「え? はい、分かりました……。どうしたんですか?」
「デートしよう。行き先は着いてからのお楽しみ」
「わ、分かりました」
「それじゃあ、また家に着いたら連絡してね」
プツリと通話が切れる。
私はその場に立ち止まり、スマホを見つめた。
デートか、そっか。何も知らなかったら、きっと幸せで楽しみで、とにかく浮かれていたんだと思う。けど、今は違う。
一緒にいればいるほど、先輩への気持ちは大きくなって苦しくなり、自分の首を絞めるだけだ。けど、このデートを最後の思い出にすればいい。
────この思い出を最後に、私は花宮先輩にお別れを伝えよう。
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