もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜



 花宮先輩はそれを確認すると、私とその後ろにいる高野さんを交互に見て心配そうに眉を下げた。



「二人とも、平気?」
「はい、ありがとうございます」
「…………」
「クラスメイトがね、香坂が騒いでるって教えてくれて。ナイスタイミングだったね」
「本当に助かりました……」
「全くもう。朝言ったじゃないか、香坂には気を付けろって。何もなくてよかった」



 先輩は、引っ張られたせいで乱れた私のネクタイを直しながら、呆れたように微笑む。まるでさっきまでの威圧感が嘘のようだ。その間、高野さんは何かを考えるように黙ったままだった。


 私のネクタイを結び直した先輩は、よし、と呟き片手を上げる。



「それじゃあ、俺は戻るから。もう香坂には近付かないようにね」


 
 花宮先輩が廊下の向こうに消えていくと、私はやっと落ち着くことができた。そして、私の後ろに立っている高野さんを振り返る。



「高野さん」
「なに」
「いくら香坂先輩が違反してたとしても、もっと言い方があるはずだよ」
「言い方って?」
「だから……もっとこう、下手に出るとか。というか、私達は後輩なんだから」



 私が話している間に、高野さんは歩き始める。私はそれに並ぶように隣を歩き、話を続けた。



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