とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
「そりゃ、相方の口が達者なんじゃねえ。お前が相方に甘いんだよ」

 結婚式の話を聞くなり本堂は俊介をバッサリ一刀両断した。

 俊介は言い返すこともできなかった。全部本当のことだからだ。

「結婚式なんて別にいいじゃねえか。晴れ姿がみたいなら写真だけ撮りゃいいだろ」

「それじゃただの形にしか残せないだろ」

「だってよ、聖。なんか言ってやれ」

 話を振られて聖はえっと驚いて自分を指差した。

「そ、そうね。うーん……綾芽ちゃんの気持ちも分からなくもないしね……」

 多勢に無勢だ。三対一になったらもはや俊介に勝つ手段はない。なにせ、向こうには口から生まれたような元営業マン、本堂がついているのだから。

「綾芽さんだってお金があったらやりたいはずなんだ。なら遠慮せず俺に頼ってくれたらいい。これじゃなんのために貯金してたのか分からない」

「別にお前の貯金は結婚式のためじゃねえだろ」

「お金があろうとなかろうと俊介のお金を湯水みたいに使える子じゃないから遠慮してるんでしょ」

「うっ……」

 まったく、この夫婦は一体いつからこうなったのだろうか。結婚してから似てきたのではないだろうか。俊介が分かりやすく溜息をつくと聖はコホン、と咳払いした。

「お金だけがネックならうちの子会社が運営してる式場でも紹介するわよ? 社長秘書だもの。私が頼めば結構まけてくれると思うけど」

「もうどこでもいい。とにかく綾芽さんが納得してくれるようにしないと……」

「そもそも、綾芽ちゃんって結婚したいの?」

「そ、そこからか? 婚姻届にサインしたんだからしたいんだろ」

「なんだか聞く限りだと、結婚に対してあんまりいいイメージ持ってないように思えるの。家庭の事情も複雑だから、俊介ももう少しその辺りを考えてあげたら? 綾芽ちゃんの可愛いところ見たいのはよく伝わったけど、お互い幸せじゃないと式をしても意味ないでしょう?」

 お説教のように言われて、俊介は少し反省した。自分の思い先行で結婚式をすることばかり考えていたが、綾芽には綾芽の考えがあるのだ。夫婦になるなら、お互い譲歩することも必要だろう。

「よし、じゃあ俊介。今度綾芽ちゃん貸してもらえる?」

「は? どうするんだ」

「俊介はお仕事。簡単な仕事よ。うちの子会社の結婚式場にウェディングのイベントを開くように提案して。参加者に申し込み順でウェディングモニターとして利用させてもらう代わりに挙式料を割り引いてもらうとか特典をつける。それなら綾芽ちゃんも納得するんじゃない? 社員割引も効くし」

「聖……お前、天才か」

「伊達に一回結婚してないわよ」

 聖はふふん、と鼻を鳴らした。盲点だった。それならば綾芽も納得してくれるかもしれない。

「じゃあ、俊介仕事頑張ってね。期待してるわよ」

「何年お前の秘書してると思ってんだ? それぐらいやってやるさ」

「そういうことで、はじめさんも手伝ってあげてね」

「なんで俺が」

「文句言わない! 私達の時だって色々協力して貰ったでしょ。俊介は有能だけど営業じゃないんだから。頑張ってね、元営業成績第一位さん」

 本堂は断りたそうだった。それはそうだ。本堂は元々海外事業部で、ウェディングなんて専門外だ。だが、大事な妻の聖には勝てなかったのだろう。分かったよ、と渋々応えた。

「お前も聖に甘いな」

「うるせえな。惚れた弱みだ」

 やると大見得切ったものの、俊介がまったく関わりのないウェディングの提案をするのは簡単ではなかった。

 いくら藤宮グループの子会社で売り上げを把握しているとはいえ、俊介はウエディングプランナーでもなんでもない。勿論本堂もだ。

 だが、二人は常務と秘書という大きな肩書きがあったため、話をすることは容易かった。

 現状その式場ではモニターウェディングを行っていなかった。俊介はそれによってどれぐらい利益が出るかを計算し、本堂は式場の責任者を言い負かすべくひたすら結婚式の知識を詰め込んだ。

 聖は二人が手を組んだら最強じゃない? などと悠長に言っているが、本人達は必死で二度とやりたくないぐらいの気持ちだった。

 俊介は自分の結婚式がかかっているからやらなければならないし、本堂は聖に頼まれた手前失敗は許されない。

 成功した後は二人で飲みに行こうと誓った。
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