若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜

何不自由ない独身生活 絢斗Side

「では、若旦那。おいとまさせていただきます。できあがりをお待ちしておりますね。わたくしどものお店の方にもぜひお越しくださいませ。重ねてお待ち申し上げます」

 椅子から立ち上がった女性は、大きな黒の櫛かんざしを挿した頭を下げて微笑む。

「本当に御子柴屋の若旦那はいつお目にかかってもお美しいですわね。お着物姿が凛として立ち姿が見目麗しいですわ」

 朝から晩まで、用事がない限り俺は着物を着用している。日常、洋服のように取り入れているため着慣れている。

「男に美しいとは言いませんよ。では、仕上がり次第ご連絡します」

 俺は一笑に付し、連れだって商談部屋を出て、玄関口へ並んで歩を進める。

 彼女は銀座で一番古いクラブの二代目ママ寿(こと)葉(は)さん。昭和の初めに開業した一代目から『寿(ことぶき)』を引き継いだ後も盛況で、彼女の羽振りはいい。一代目から変わらずに御子柴屋の上顧客だ。

 白の正絹に肩から袂、裾に黒地、葡萄唐草模様の訪問着を粋に着こなしているのはさすがだ。葡萄唐草模様の葡萄には希少性高い染色の帝王紫を施しており、俺はしばしそれに魅入る。




 
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