若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 彼は借金を返してくれると言ったけれど、借金は自分の力で返し、ロスに戻ろう。

「私、やっぱりロスへ帰ります」

「澪緒、すでにおばあさまにも紹介をした。パーティーの出席者にも君の存在を知られた。このままだと俺の顔が立たない。ひとまず三カ月だけでいい。婚約者のふりをしてくれないか。三カ月経って君の気持ちが変わらなければ婚約は解消してもいい」

 彼の必死な様子を見て、よほど困っているんだろうと感じた。

 父の頼みとはいえ彼に見初められるためにこのパーティーに参加したのは事実だし、皆の前で婚約者だと宣言されたときにはっきりと断らなかった私にも責任はある。

 三カ月経ってロスに戻れるなら、その間だけやってみてもいいか……。

「じゃあ、三カ月間だけ。そうしたらロスに戻ります」

「日本に住むつもりで来たのではないのか?」

「こんな展開は予想していなかったから、明後日のフライトで帰る予定だったの」

「残念だったな。俺の目に留まって」

 絢斗さんは楽しそうに口角を上げて笑う。

 残念……? 私は本当にそう思っているの?

 男性を信じられなくて遠ざけてきた私が、写真を見て彼に会ってみたいと惹かれたのは事実。それにもしこのまま本当に結婚すれば、ずっと欲しかった家族団欒(だんらん)が手に入るのだから、私にとっても悪い話じゃないはず。

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