若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜

花嫁修業のはじまり

 ホテルをチェックアウトし、絢斗さんは呼んでいたハイヤーに私を乗り込ませた。キャリーケースなどの荷物はトランクの中だ。
 
 後部座席の私の隣に、絢斗さんは着物が皺にならないよう注意を払いながら腰を下ろす。その一連の動作は堂々とし、流麗で見惚れる。

 振袖から私服に着替えた私は日本に到着したときの服装だ。髪は飾りだけ取り、三つ編みはほどいていない。

 パーカーにジーンズ姿の私、洗練された着物姿の彼。

 並んで座る私たちはなんてチグハグなんだろうと思って、なんだかおかしくなった。

 車が動き出すと、彼は名刺入れから一枚取り出して私に渡す。

「ここが御子柴屋本店の住所と電話番号、自宅はそこから徒歩五分ほどのところにある。君の住まいになる。祖母と、別棟に住むわが家を管理してくれている夫婦、それと通いの家政婦がいる」

「はぁ……」

 名刺へ視線を落とし、これからどうなってしまうのか……ため息しか出ない。

「気のない返事だな。君は今日から婚約者として同居し、御子柴屋の若奥さまの勉強をするんだ」

 流されるままについてきてしまったけれど、やっぱり彼の婚約者にはなれない。まだ結婚なんて考えられないし、老舗の呉服屋の若奥さまとしてやっていく自信もない。

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