麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない
頭上でかわされるやりとりに口を挟む余裕がない。
相変わらずスラスラと出まかせを言うハーランツさんの頭の回転の速さにも驚くが、イグニス副団長はなんだかとても楽しそう。こちらを疑う様子も見えず、すっかり納得している。
楽観的で人情派、そして気分屋と三拍子揃った彼は元来明るく適当な性格ゆえに、構えていたよりも寛容らしい。
一番の愛弟子か。その気持ちが嬉しいな。
「オルデン団長にバレないようにやれよ。あの人、頭かたいからさ」
彼は上機嫌で去っていく。
その場をしのいで、安心感が胸に広がった。
よかった。なんとか誤魔化せたみたい。
ハーランツさんは無言でイグニス副団長の背中を見送り、そして私の手を引いて自室へと戻る。
部屋に入って扉を閉めると同時に、繋いだ手が放された。
「ハーランツさん?」
終始黙ったままの彼に首を傾げる。すると、振り向いた彼の表情に心が揺れた。
怒りとも悲しみとも違う、憂いのあるまなざし。どうにもならない強い感情を必死で押さえつけている彼の顔は初めて見た。
こんなにも、余裕が崩れたときはない。