堂くん、言わないで。
「なんか言った?」
「眠くなってきたっつった」
「ええ、そうだったかな……」
もっとちがうことを言ったような気がするんだけど。
痒いであるとか寒いであるとか、そういう形容詞を発したようには聞こえた。
「寝る」
「いまから?いつ起きるの?」
「みくるが帰るとき起こして」
「え、えー……」
そんなのいつまで経っても起こせない。
断れない性分であるからとかではなく。
ただ純粋に、わたしもまだ堂くんと一緒にいたいと思っていた。
いつもとはちょっぴり違う、甘い匂いのする空間。
すこし遅めのティーパーティーはわたしたちだけのひみつ。
(というかここ、飲食禁止なんだよなぁ……)
誰もいない図書室に堂くんのかすかな寝息がたゆたう。
寝るのはや、なんて感想はとっくの前に思い尽くした。
日が傾くのがずいぶん早くなり、昼間の明るさがつまみで調整したかのように、じわじわと色を変えていく。
まるでふたり、世界から切り離されたかのように。
わたしたちは寄り添って体温を分かち合っていた。