堂くん、言わないで。


「いたい、いたいよ…………ひっく、」


わたしは子どものようにいたい、いたいと泣きじゃくる。

まぶたよりも心が痛かった。


覚悟はしていたつもりでも、やっぱりそれはショックで、まだ気持ちの整理がつかなかった。



当たり前だ。

いままで書き溜めてきたものをそんなすぐに白紙に戻せるわけがない。


必死に消しゴムで消して、消えないところは何度も擦って。

そうしてすこしずつ消していくしかないんだ。



しばらくのあいだは立ち直れそうにない。



泣きながら堂くんの背中に手を回す。


自分からこうして手を回すのは初めてだった。



前髪にすっとなにかが触れた。

それはなにか、柔らかな感触だった。


だけどわたしはそれを気にする余裕もなく、堂くんにしがみついていた。



つらい。

いたい。

くるしい。



変わることはこんなにもしんどいんだって、解らされただけのような気もする。


こんなことなら変わらなきゃよかったって、一瞬でも思ってしまった自分がいる。



だけどわたしはやっと一歩、前に進めた。


今までの自分をほんのすこしだけ、変えることができた。




本当の自分を知らなかったのは、誰よりもわたしなのかもしれない。


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