堂くん、言わないで。
「な、なにも……べつに、なにもされてない」
なんで言わないといけないの、というすこしの反発心。
なにより思い出すだけで頭がパンクしてしまいそう。
脳裏に浮かんだ愛おしさがこもったような目つき。
わたし……わたしなんかのどこがよかったの?
なんで好きになってくれたの?
なんでキスなんか……
頭のなかを埋め尽くさんばかりの“なんで”。
またぼうっとしていたのか、堂くんの声が降ってきた。
「みくる」
てっきり不機嫌なのかと思ったけれど。
その声はなんだか切なさをはらんでいて。
どこか追い込まれているようにも感じるから、わたしはあわてて手を振った。
「なんでもない、大丈夫だから!ちょっと触られたっていうか、触れられただけ……だから」
キスされたとは、とてもじゃないけど言えなくて。
考慮した結果、なんだかすこし変態チックな言い方になってしまった。