堂くん、言わないで。
ガラスの靴が落っこちて、







文化祭の準備もいよいよ大詰めを迎えていた。


すこし心配だったシンデレラの演技もセリフも、そこまで難しくはなくて。


カボチャのケーキを注文されたら、ガラスの靴を履いて王子さまの前で落とす。

それを拾った王子さまが持ち主を探して、わたしを見つけ、ハッピーエンド。


時間にしておよそ3分。ちょうどいい長さだった。




「ひとつ問題があるとしたら」

「うん?」

「わたし、このドレスに負けてない?」



文化祭前日の放課後。

役を与えられた人たちで集まって、最終の打ち合わせをしていた。

もちろんわたしも、そして棗くんも参加していて。


みんなからすこし離れた教室の隅で、わたしはとなりにいた棗くんに小さく呟いた。


見おろしているのは自分のドレス姿。

衣装班の子たちが寝る間も惜しんでつくってくれた代物だ。


ブルーのドレスは裾がふわっと広がっていて、すごく豪華だった。



そのぶん、わたしの地味な顔がひどく浮いているような気がした。

メイクをしたくらいじゃ派手にならない、うすらぼんやりした顔。


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