堂くん、言わないで。


バステト……っていう猫の神さま?いたよね。

堂くんはまさにそのバステトみたいだ。


図書室の宗教画だって言われてるところも、遠巻きに眺められてるところも含めて、っぽい。



どうでもいいことをしみじみ考えていたら、

堂くんがわたしの前髪をさらりと撫でた。





「俺は……

お前にだけ“優しい人”でいられたら、それでいい」



「え、それどういう意味……」

「さあ」

「さあ、って」

「なんとなく、そう思っただけ」


堂くんがわたしに手を伸ばす。

ほおに触れてくるのは堂くんの癖なのかもしれない。


存在をたしかめるような、そんな手つきに思わず彼の袖をつかむ。




「わたしはちゃんとここにいるよ」



堂くんの目にかすかに開かれる。

そうしてふっと力がこもった。


それは些細な変化だけど、たしかにそこには感情があった。






「……知ってる」


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