堂くん、言わないで。
話し終わったあと、なゆちゃんが興味深そうに声をあげる。
『へぇー?みくるもやっと大人の階段をのぼったわけね』
「大人の階段って……」
『で、その堂くんはみくるのことが好きなの?前に言ってたカイロの人よね?そんな気配ある?』
「ないよ!ぜんぜん、そんな……みじんも感じられない」
わたしのことは歩くカイロ、せいぜいあったか人間くらいにしか思ってないはず。
なんだか自分で言って悲しくなってきた。
『そう?まぁみくるがそういうんなら、間違いないんだろうけど』
間違いない、とは堂くんがわたしのことを好きじゃないってこと。
わたしは昔から人の顔ばかり見てきた。
いや、どちらかといえば盗み見てきたといったほうが正しいかも。
人と目を合わせることは苦手。
だけど顔色をうかがうことはやめられなくて。
結局、その人がなにを考えているかわかる程度にまで成長してしまった。
あ、あの人、あの人のこと好きだな。
なんて、恋の矢印を見つけてしまうこともしばしば。
だから決して鈍感なほうではなく、むしろ勘が鋭い部類に入るんだと思う。
堂くんからはなんの矢印も感じられなかった。
ほんとうに、みじんも。