君との恋の物語-Reverse-
よくない。
シンプルによくない。
俺が不機嫌な理由は、すごく簡単に言って「嫉妬」だ。この「嫉妬」が一番よくない。
してる方もされてる方も、誰も得しない。
しかも、「嫉妬」の原因になっている人物は俺達の恋愛とはなにも関係ないんだから。
それでも止まらない。
さぎり。気付いてないんだろうな。
今日の放課後、その短い時間だけで、俺が言葉に出して「さぎり」と呼んだのはほんの数回。だけど、心の中でとこんなに呼んでいるんだ。さぎり。。さぎり。。
さぎりの中で、俺はまだ「君」なのか?
「君」って誰だよ。あの日告白したのが俺じゃない「君」だったらさぎりは同じように、いや俺よりもその「君」を好きになって、そいつは「君」じゃなくなって。。やめよう。
さぎりがいつこんなこと言ったんだよ。
なにも言ってないだろう。。
そう、なにも言ってない。
そうだとも、違うとも。
言ってくれよ。
ちゃんと、「君」じゃなくて「○○」が好きだって。
3ヶ月も経っているのに、俺は苗字すら呼ばれない。





「前田君」





やめてくれ。
さぎりが口に出して呼んだその名前は、その時のさぎりの声と一緒に耳の奥に張り付いてる。
やめてくれ。
前田はなにも悪くないのに、お前の事まで嫌いになりそうだ。。
ん?お前の事まで?

は?俺はさぎりを嫌いになりそうなのか。。?
こんな小さな事で??
3ヶ月前の、あのデートを夢にしたくなくて、勇気を振り絞って告白してその結果がこんな。。こんな小さな「嫉妬」で。。
それに、なんだっけ、今日、教室で話していた時に引っかかったのは。。えっと。。
あぁ、そうだ。咄嗟に口をついて出た言葉を「本心」だと思って。。。じゃそれまでは本心じゃなかったのかって。。
ダメだ、頭がこんがらがってる。
どれが自分の本心かもわからなくなってきてる。。
あ、そう言えば今日電話するんだった。。
今何時だ?
21時40分。。大体いつも電話が始まるのが21時半前後。遅くとも22時くらいだ。
確認の連絡を入れようかと思ったけど、もういてもたってもいられなくなった。
これ以上1人でいたら、気持ちを整理するどころか自分で自分の首を絞めることになりそうだ。
もういい。電話しよう。
でなかったら、その時はその時だ。

『もしもし』
「‥もしもし」
よかった。出た。
『あ、さっき、電話しようって言ってたから、かけてみた。今、大丈夫?』
声は少し暗い気がするけど、でも、やっぱり電話してよかった。
さぎりの声は安心する。
「うん。大丈夫だよ。」
そうか、それならよかった。
『なんか、話あった?』
安心させてもらったから、今度はさぎりの話を
「いや、前田君達との話。進んでないみたいだけど、なんかあったの?」
あぁ、わかってないんだな。もらった安心はどこへやら。不安を通り越してさすがに苛立った。
『あぁ、あの話さ、やっぱりやめない??』
もうやめよう。仮に実現したとしても、1日笑顔を作っていられるような状態じゃない。
それならはっきり言った方がいい。
「どうして?」
。。少しは考えてくれないかな。。
まぁ、理由はいくらでもある。
『いや、やっぱり、俺らは付き合ってるからいいけど、前田と、厨二さんは、ほぼ初対面なわけでしょ?それで、話なんてできるのかなって‥』
「だから、そこは厨二がうまく自分からいくって言うことで‥」
『それは厨二さんが勝手に言ってるだけでしょ?』
悪い。言葉がきつくなった。それに、さぎりの言葉を遮ってしまった。
フォロー。。フォローしないと。
『前田はさ、ちょっと‥シャイなとこあるからさ‥。』
アホか。なんだその取ってつけたような理由は。。さすがにさぎりも勘付いて
「あの‥違ってたらごめんなんだけど、君は、厨二があんまり好きじゃないの‥?」
『え?なんで?』
違うよ。
「いや、私が見ている限り、前田君ってそんなにシャイでもなさそうだしっていうかむしろ、修学旅行の時に厨二と話してるとこ見たけど、結構いい感じだったから、そんなに初対面っていう感じでもなさそうだなって‥思うんだけど‥」
後半は聞くのをやめた。いいかげんにしてくれ。

「ねぇ」
『え?』
切りたい。今日は誰とも話したくない。
「聞いてる?」
だから聞きたくないんだって。
『聞いてるよ。木村結の曲』
まさか。こんな時に大好きな歌手の歌なんて聴けるか。
「どういうこと?」
こんな状況でまだそんなことを
『それはこっちのセリフだけど‥』
「‥なにが?」
ちょっと我に返った。さぎりの声が尖っていたから。でも、もう隠すのも無理だな。
『前田君はって随分詳しいんだなぁと思って』
ついに言ってしまった。
俺は初めて「嫉妬」を剥き出しにした。
でも、罪悪感に苛まれている暇はない。。
「どういうこと?」
今は答えたくないな。。
『そのままの意味。もう話すことないなら俺は木村さんの歌聞きたいんだけど。』
トドメ。みたいなつもりで言った。
ここまで嫌悪感を出したらさすがに引き下がってくれると思った。
でも、俺の予想とは裏腹に。。
「ちょっとなんなの?元々2人で始めた話だったのに全然進んでないし、口を開けば木村結香ってそればっかりだし‥。ちゃんと話す気ないならなんで電話してきたの?」
聞きたくない。答えたくない。
「厨二は私の大事な友達で、それは君もわかってくれたじゃない?だから前田君とのことにも協力したいって、私の友達のことなら協力したいって言ってくれたのに‥どうして?最初から嫌だったの‥?本当は最初から嫌だったの?」
俺のことはずっと君。君って。そのくせ前田のことは前田君。君ってだれだよ。


話したくない。聞きたくない。
もうやめてくれ。
『もう話したくない』
感情が昂り過ぎて、急になにも感じなくなった。

「ごめん、聞こえなかった。なぁに?」
聞こえないように言ったんだ。
『そうじゃないけど‥今はあんまり乗り気じゃない。』
「どうして?」
だから言いたくないんだって。
『それは言いたくない。言ったら‥よくないと思う。』
ただ聞くだけで考えてくれないなら、少し時間をくれ。
「言ってよ。ちゃんと聞くから。」
だから
『今日はやめよう。言うなら会って言いたい。』
少し時間がかかるけど。。

「わかった。ごめん、私のわがままで‥。」
いや、元はと言えば俺のせいだ。
『いや、いいんだ、俺が悪い。』

「ごめん、わがままついでだけど、私このまま電話切りたくない‥もう少し話さない?」
。。。断りたい。けど
『うん、いいよ。なに話そっか?』
話題を変えれば、まぁ大丈夫か。

「聞きたかったんだけど、君が告白してくれた日、あるじゃない?あれ、どうしてあの日だったの?」
『どうしてって‥』
いつ告白するかなんてずっと考えていたよ。
誘ってくれたのはさぎりからだけど、でも実行に移したのは俺だろ?
あれ?なんだ?言葉になって出てない。。
「だって、あの日誘ったのは私じゃない?だから、あの日私が誘わなかったら、どうなってたのかなって」
俺はあの日に告白しなかったらどうなってたか聞きたいんだけど。
『どういう意味?』
なぜ素直に聞かない?
話している相手はさぎりなんだぞ?
『俺はあの時期、いつさぎりに言おうかずっと考えていたよ。さぎりが誘ってくれたけど、話を強引に進めたのは俺でしょ?俺こそ聞きたいよ。俺が告白しなかったら俺達は付き合うことはなかったのか?って』
全然素直になれない。言いたいことはそのままだけど、こんな言い方はしたくなかった。。
「ごめん、そんなに深い意味はなかったんだけど‥今日はもう、話すのやめよっか‥」
そうだな。フォローしようとしても悪い方向にしかいかない。
『ごめん。俺も言いすぎた。ちょっと冷静になれなくて‥。今度ちゃんと話そう。』
少しでいいから時間がほしい。
「うん。おやすみなさい。」
『おやすみ』
その日...俺は全く眠れなかった。

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