交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
(なんで? どういうことなの?)

 状況を受け入れられず、私は椅子の背につかまって立ち上がる。だが重くてかさばるドレスと華奢なハイヒールと長いヴェールのせいで、大きくよろけてしまった。

「まあ、みずほちゃん。だめよ! そのまま座っていらっしゃい」

 母が大げさな悲鳴を上げたが、そのままドアの方へと向かう。
 だって圭介さんは人生を着実に歩いていけるように、検討に検討を重ねて選んだ相手だったのだから。

 私は立ち止まって、目を閉じた。一から十五までゆっくり数え、大きく息を吐く。
 どうしていいかわからなくなった時は、いつもそうやって自分を取り戻してきた。そしてたいていそれはうまくいったのに、今回ばかりは全然だめだった。

 いくら深呼吸を繰り返しても、頭の中は真っ白なままで、何も考えられない。

「お父さんは?」
「あちらのお父様やホテルの方と話しているところよ。どうするか方針が決まったら教えるからって――あ、みずほちゃん! どこへ行くの?」

 私はふらつきながらも、外へ出ようとした。
 ドレス姿の花嫁が不用意に歩き回れば、妙に思われるだろう。それでも、じっとしてなんかいられない。

「ちゃんと話を聞いてくるの」
「でも話って、誰に?」
「すぐ戻るから、お母さんはここで待ってて」
< 3 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop